第七章 白竜傭兵盗賊団2
「……殺った」
聞こえてくる少女の声。
直後、ジークに直撃するのは巨大な氷の刃だ。
(っ――この魔法、なんて威力と速度だ。魔力の規模はエミールより少し下くらいだが、コントロールが圧倒的に上手い)
刃を極限まで薄くし、切れ味を究極に高めているのが見て取れる。
あれならば、鋼鉄を容易く両断するに違いない。
もしもジークに障壁がなければ、重症を負っていた可能性すらある。
(この時代の人間は雑魚ばかりだと思っていたが、なかなかどうして……楽しめそうな奴もいるじゃないか。にしても、初撃が俺狙いでよかったな――ユウナなら言わずもがな、アイリスでさえ、今の魔法ならやられていた可能性がある)
まぁ、その場合はジークが全力で守るが。
さて、先の魔法を放ってきたのはどんな少女なのか。
ジークはそんなことを考えながら、視線を先ほど声が聞こえて方へ向ける。
するとそこに居たのは――。
雪の様に真っ白い少女だった。
身に纏っている白い魔法使い帽とローブ。そして、それすらも霞む雪の様に白い髪。
そんな彼女は同様、白を基調とした翠玉の杖を見ながら首を傾げている。
その杖の先端には、氷の刃が生えており、今では中ほどから折れてしまっている。
(あれは上位氷魔法 《ブライニクル》……この時代において、一人では使えないはずの上位魔法を、無詠唱かつあの練度で……しかもあの攻撃、受けるまで気配を読めなかった。まさかこいつ――いや、それより先に確認すべきことがあるか)
魔法使い然とした容姿。そして、その実力から考えて間違いない。
ジークは未だ首を傾げている少女へと言う。
「白竜傭兵盗賊団首領――ブランで間違いないか?」
「ん……間違いない」
「さっきの攻撃は見事だった。転生してから初めて、敵の攻撃を『すごい』と感じたよ」
「あなた、とっても固い……これ、城とかでも普通に斬れるのに」
と、ブランは氷の杖を一度振るう。
すると、杖についていた折れた刃が再び形成される。
(なるほど、上位魔法を連続して使える魔力も持っているか――それにやはり)
先ほどジークは、ブランが杖を振るう際に見てしまったのだ。
左手の甲にある闇の紋章を。
(並外れた魔力と、魔法にかんする才能……これなら納得がいくか)
ブランは宿魔人だ。
しかもこの氷魔法を操る力から考えるに、転生前の名前は。
「竜姫ホワイト・ルナフェルトか」
「いま……なんて?」
と、ジークの呟きに反応を示すブラン。
ジークはそんな彼女へと言う。
「お前の昔の名前だよ。懐かしい感じでもしたか?」
「……知らない」
「炎を操る赤竜、ルナフェルト族に突然変異で生まれた個体。瞬く間に一族の長になり、やがて俺の右腕として長い間過ごす」
「…………」
「夢で何度も見るなりしてるはずだけどな。お前はそれだけ強い力を持ってる――ということは、闇の紋章とも結びつきも一際強いはず」
「あなた……誰?」
「俺は魔王ジーク。本来のお前が仕えるべき男だ」
「……そう」
と、ブランの姿が消える。
凄まじい速度だが、場所はわかっている――後ろだ。
ジークは振り向きながら剣を引き抜き、ブランの氷の刃と打ち合わせる。
すると、ブランはジークへと言ってくる。
「あなたを……知っている、気がする」
「だったら、俺の下へ来るべきだ。俺達が戦う必要はないと思うが?」
「だけど……私はブラン。今はあなたの……敵」
言って、ブランは左足を軽く地面に打ち付ける。
すると、ジークの足元から生えてくるのは、大量の氷柱だ。
ジークはそれを空中へ飛んで躱しながら、考える。
(さっさとブランの記憶を覚醒させるのもいいが、少し遊んでやるか。元部下のわがままに付き合うのも、魔王としてのお仕事だ。それに俺自身、こいつの今の実力を見ておきた――)
「……逃がさない」
と、ジークの思考を断ち切り聞こえてくるブランの声。
彼女はジークの方めがけ、左手を翳してくる。
するとジークを取り囲むように現れたのは、無数の氷柱だ。
(すごいな……まだ覚醒してないとは思えない。一つ一つに、上位魔法レベルの魔力が込められている。五百年前に、俺に傷を負わせた大賢者に匹敵するレベルだ――だけど)
「この程度じゃ俺を倒すことは不可能だ」
言って。
ジークは迫って来る氷柱全てを、剣を使って叩き落す。
「……っ!」
と、さすがに驚いた様子のブラン。
ジークは着地すると同時、剣を構え彼女へと駆ける。
「さぁ、もう終わりか? もっとできるだろ、お前なら」
「……うるさい」
再び打ちあわされる金属と氷の刃。
その音は絶え間なく、無数に続けられる。
「ははっ、すごいなブラン! 俺が徐々に剣速を上げているのがわかるか?」
「……!」
と、もはや喋る余裕もないに違いないブラン。
ジークはそんな彼女へと、剣を繰り出し続けながら言う。
「さっきの魔法も含めて、もはや人間の領域を超えてるよ。なのにお前はついて来る――その意味がわかるかと聞いてる」
「わから、ない……っ」
「魔王という存在が傍にいるせいで、お前の中の『魔』が反応しているんだ。だから、普段以上の力が出る――楽しみだ、これで覚醒させたらどれほどの強さになるのか」
ホワイト・ルナフェルトは竜族故、当然その姿も竜だった。
けれど、今は違う。
(ブランは人間だ。人間として培った気配の消し方、氷の刃を用いた近接戦闘。覚醒させれば、そこに竜への変身能力も加わる可能性が高い)
それになにより、ホワイト・ルナフェルトはジークの忠臣だった。
アイリスと並んで、ジークを守る最後の砦――長い時間を共に過ごした家族。
そんな彼女が強くなって帰って来るのだ。
「本当に、楽しみだ」
ジークがそう呟いた直後、ブランがついにジークと距離を取る。
彼女は地面に杖を刺し、寄りかかる様にしている。
(さすがに限界、これ以上は酷か……そろそろ終わらせて、さっさと覚醒を――)
「これで、最後……」
と、なんとブランはまだやる気に違いない。
彼女はジークに杖を向け、ジークへと言ってくる。
「『あの人に捧げる氷よ、あの人を守る氷よ……今、私の前に敵が居ます。あの人を傷つけようとする敵が居ます……私に力をください。どうか私を、あの人を守ることが出来る刃に変えてください』」
詠唱――随分と健気な文言だ。
きっと、断片的に過去を思い出していたからこそ、作られた詠唱に違いない。
ジークがそんなことを考えていたその時、ついにブランが詠唱を終える。
「上位氷魔法 《コキュートス》――もし、ブランを知っているなら……超えてみて」
そんなブランの言葉と同時。
ジークに押し寄せて来たのは、凄まじい量の氷だ。
それはまるで反乱した川のようであり、力強くも美しさを感じさせられた。
「繰り返し言うが、見事だよブラン」
相手がジークでなければ――たとえ全力のアイリスが相手であっても、きっとブランが勝利していたに違いない。
もしも次戦うことがあれば、ブランが覚醒してから戦いたいものだ。
ジークはそんなことを考えながら、彼女が放った魔法に剣を振り下ろす。
直後。
上位氷魔法 《コキュートス》は、ジークの一閃により跡形もなく消し飛んだ。
そして、後に残されたのは。
「…………」
フラフラと今にも倒れそうなブランだ。
きっと、先の一撃で全ての魔力を使い尽くしてしまったに違いない。
ジークはすぐさまブランの下へ近づいていき、彼女を支えようとする。
「大丈夫か、ブラン?」
「ねぇ……ブランが誰だか……教えて、くれるの?」
と、ブランがそう言って意識を失ったのは、ジークが彼女を抱きとめたのと同時だった。
さて……これは毎回、言ってることなのですが
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