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第七章 白竜傭兵盗賊団

「つべこべ言ってないで、かかってきたらどうだ――もしも本当に、俺をおびきよせられたと思ってるのならな」


「手加減してやるからってか!?」


 と、ジークへ言ってくるのは盗賊達だ。

 彼等は続けて言ってくる。


「こっちは知ってんだよ! てめぇがどうしようもねぇ、卑怯者だってな!」


「なに?」


「とぼけてるんじゃねぇぞ! てめぇはそう言って、油断させて俺達の仲間を倒しただろうが!」


 なるほど。

 どうやらこの盗賊は、先日の村での一件を言っているに違いない。

 なんせ、あの時奴らの仲間が――。


『魔法を使わないと言ったくせに、魔法を使うとは何事か!』


『さすが魔王を名乗る男……悪逆非道とはこのことだぜ!』


 などと。

 そんなことを言っていた。


(俺は魔王だから、卑怯者呼ばわりされるのは気にしない……だけど)


 こんな雑魚相手に、卑怯な手段でなければ勝てない。

 そんな風に思われるのは、さすがに嫌だ。

 まぁ、言っても無駄に違いないのだが。


「そこでだ、俺達はあいつらとは違って、てめぇのペースには乗せられねぇ!」


「おうさ! 俺達はてめぇ用にとっておきを用意してたんだよ!」


 と、次々に言ってくる盗賊。


 奴らは嫌らしい笑みを浮かべた後、ジークから距離をとってくる。

 そして、奴らの中から二十名ほどの後衛職が前へ出てくると――。


「『人を拒みし絶対の門、かつて魔界に君臨せし漆黒の門!』」


「『何人の侵入を阻む究極の門を守りし、獣――我等に力を貸したまえ!』」


「上位召喚魔法 《サモン=ケルベロス》!」


 盗賊達は杖を翳しながら、そんな言葉を言い放ってくる。

 直後、ジークの目の前に現れたのは巨大な魔法陣だ。

 その魔法陣は凄まじい稲光を放っており、見ていて眩しいほどだ。


(にしても、こいつらはバカなのか? 敵の目の前で召喚魔法使うとか――召喚している間に、攻撃してくださいって言っているようなものじゃないか)


 こういう場合、召喚魔法は少し離れた場所で使うのがセオリーだ。

 どうやら五百年の間に、戦いのセオリーを失われてしまったに違いない。


(まぁ、それなりの魔力を込めたみたいだし、そんな野暮はしないけどな……手加減として、最初の一撃は受けてやろう)


 と、ジークがそんなことを考えている間にも、魔法陣の光はどんどん増していき。

 ある時を持って内側からはじけ飛ぶ――同時。


 中から現れたのは、魔法陣を超える大きさの魔物だ。

 凶暴そうな牙を剥き出しにする顔が三つあり、全身漆黒の筋肉で覆われたその姿。


「うははははははははっ! どうだ、こら!? このクラスの魔物を召喚できるのは、世界中さがしても、俺達くらいのものだぜ!」


「これが現代の賢者と恐れられた俺達が、全ての魔力をつぎ込んだ最強の召喚獣だ!」


「この召喚獣ケルベロスは、五百年前に大陸を荒らしまくった伝説の魔物! その魂を我々が召喚、魔力で一時的に受肉させたものだ!」


「伝承によると、ケルベロスは魔王討伐隊を、たった一体で半壊させたと言われている! つまり、勇者様たちですら手を焼く強さに違いないのだ!」


「さぁ、我等の切り札――現在では触れることすらできない、人智を超えた究極の魔物……召喚魔法の極致にして最高峰! これが貴様如きに破れるかな?」


 と、ケルベロスの後ろから言ってくる盗賊達。

 ジークはそれを聞いて、思わず唖然としてしまう。

 なぜならば――と、考える間もなく盗賊達は続けて言ってくる。


「行け、ケルベロス!」


「その男を焼き払ってやれ!」


「俺達の魔力を喰らった対価で、その男の命を喰らい尽くせ!」


 同時、ゆっくりと近づいて来るケルベロス。

 奴はジークと一定の距離になった瞬間、凄まじい勢いで飛びかかって来る。

 そして――。


 ジークの前でコロンとひっくり返った。

 お腹を見せる服従のポーズだ。


「「「…………」」」


 と、呆然としている様子の盗賊達。

 ジークはケルベロスと、盗賊達の様子を見て思う。


(やっぱりこうなったか……戦って楽しむ以前の問題だよな、これ)


 などなど。

 ジークがそんなことを考えている間にも。


「キュ~ン! キュンキュン! キュル~ン!」


 なんとも可愛らしい声で、甘えまくってくるケルベロス。

 ジークがそんなケルベロスの顎下を、こちょこちょしてあげていると。


「ぶあははははははははっ! ちょっ――魔王様に魔物召喚してどうするんですか!?」


 やや離れた位置から聞こえてくるのは、アイリスの声だ。

 彼女はさらに続けて言ってくる。


「凡俗ではわからないでしょうが、魔王様の中には圧倒的な力が渦巻いているんですよ! それを感じてしまえば、どんな魔物だってそうなりますよ! 魔王様を知っていても、知らなくてもね! 魔王とはそういうものです!」


 つまりはそういうことだ。

 しかも、盗賊達はケルベロスを召喚する詠唱に『門を守りし』がどうとか、強そうな印象の言葉を入れていた。


 きっと、現代の認識はケルベロス=強い魔物に違いない。

 けれど、ジーク含む五百年前の認識はそうではない。


(ケルベロスとか、知性ある魔物の子供にとっては、人気のペットだからな……)


 それにしても、このケルベロスは可愛らしい。

 ジークが顎をこしょこしょする度に、足をぴくぴくさせるところが、本当に愛らしい。

 召喚獣故、しばらくしたら消えてしまうのが惜しいくらいだ。


「おいてめぇ! なに遊んでやがる!」


「俺達の魔力を喰ったんだから、その分くらいはちゃんと仕事しろ!」


「そうだ、ふざけんな! そのクソ野郎を早く殺せ!」


 と、ジークの考えを断ち切り聞こえてくる盗賊達の声。

 ケルベロスが可愛すぎて、すっかり彼等の存在を忘れていた。


(ケルベロスともう少し戯れるために、さっさとあいつら倒すか)


 と、ジークは少し強めに剣を振るおうとする。

 しかし、それよりも先にケルベロスが立ち上がり、再び唸り声を上げ牙をむく。

 ただし、ジークではなく盗賊達にだ。


「は!? え、どういうこと!?」


「ま、まて大丈夫だ! 召喚獣は召喚主に絶対忠誠のはずだ! そ、そうだろ!?」


「そ、そのはずだ! 召喚獣は召喚した際に、魔法で魂を強制的に隷属させる!」


「じゃあなんで、あいつこっちに向かってくるんだよ!」


「し、知るか! 魂の隷属を破る程、強烈なショックを受けたとしか考えられねぇ!」


「つまりなんだ!? ケルベロスにとって、魔王はそれほど強者でカリスマ性が――」


「言ってる場合か、このバカどもが! 早く逃げるぞ!」


 と、慌て始める盗賊達。

 その直後、ケルベロスによる盗賊撃退ショーが幕を開けた。


 ケルベロスの三つ頭――それぞれから放たれる炎、氷、雷。

 それらは、盗賊達を次々に灰にし、氷像にし、炭に変えていく。


(はぁ。後衛職の連中とか、魔力をケルベロス召喚に全部使ったみたいだから、真っ先にやられてるな……また一人やられたか)


 そうこうしている間にも、ケルベロスの現界時間が過ぎたに違いない。

 ケルベロスは一度ジークを振り返り、喉を鳴らした後に消えていってしまう。


(最後まで可愛い奴だったな……五百年前、俺が小さい頃も、ケルベロスを飼っていたっけな――そういえば、俺が飼っていたケルベロスも転生しているのか?)


 あのケルベロスはそれなりに強かったので、宿魔人になる可能性は充分にある。

 旅をする楽しみが、これで一つ増えたといえ――。


「く、くそが……てめぇ、なにしやがった!」


「俺達は、やってやるよ……俺達、だけでも!」


 と、聞こえてくるのはボロボロといった様子の盗賊達。

 その数は二人――最初は五十人を超える数だったが、先の一件で大分いなくなった。


(どうしようもないクズで、どうしようもない雑魚だが、この後に及んでまだ戦う気があるのは、それなりに好感が持てるな……)


 と、そんなことを考えたのち。

ジークは盗賊達へと言う。


「一瞬で終らせてやるから、さっさとかかってこい」


「っざけやがって……」


「望み通り殺してやるよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 同時、剣を引き抜き挑んで来る盗賊剣士二人。

 ジークはそれを見るや否や剣をしまい、彼等に応じるように前へと進む。


 直後、ジークを襲ってくるのは二つの斬撃。

 しかし、どうってことはない。

ジークにはそれらが、止まっているかのように見えているのだから。


(……ここだ!)


 と、ジークは二つの斬撃が重なるところを見極め、盗賊達の剣二本を片手で止める。

 盗賊達は驚いたような表情をするが、構うようなことはしない。


 ジークはもう片方の手に力を込め、それぞれの盗賊の腹部へ拳を繰り出す。

 すると、ジークが放った拳の圧が強すぎたに違ない。

 盗賊達の身体は、最初から存在していなかったように綺麗に弾け飛ぶ。


(殆どケルベロスの手柄だが、これで盗賊団はほぼ壊滅。あとは――)


「……った」


 聞こえてくる少女の声。

 直後、ジークに巨大な氷の刃が直撃するのだった。


さて……これは毎回、言ってることなのですが


面白かったら、この部分より更に下(広告の下あたり)から、マックス星5までの評価や感想できますので、してくれると参考になります。


また、続きを読みたいと思ったら、ブクマしてくれると励みになります。


ブクマとポイントはどちらも、作者が連載する活力になっています。

冗談抜きで、執筆するモチベーションに関わって来るレベルです。

すでにしてくれた方、本当にありがとうございます。

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