第六章 罠2
「うぅ……あ、ありがとうございますじゃ」
と、言ってくるのは、木に寄りかかった老人だ。
彼は全身至るところに怪我があり、かなり衰弱していた。
けれど、ユウナの回復魔法によりそれも治癒。
「もう水はいいか? 食べ物もあるが」
「ありがとうございますじゃ、あなた様は命の恩人ですじゃ」
と、ジークから水と食料を受け取る老人。
それからしばらくたち、爺さんが落ち着いた頃。
ジークは改めて、老人へと話しかける。
「それで、爺さんはどうしてこんなところで倒れていたんだ? 失礼かもしれないけど、その身なり――どこかから逃げ出してきた奴隷だよな?」
「は、はい……実は村が盗賊団に支配されていて、儂はこれから冒険者ギルド様に盗賊退治をお願いしに行くところなんですじゃ」
「冒険者ギルドにお願い……?」
「じ、実は――」
と、そんな老人の話をまとめると、こんな感じだ。
少し前から、村が盗賊団に支配されている。
何度か村人は武装決起したのだが、首領のブランという少女がとても強い魔法使いで、まったく歯が立たない。
そのため、村人達は奴隷のような生活に身を落とすことになってしまう。
しかし、そんなある日。
村人達が秘密裏に集めたお金を、この老人に託したそうなのだ。
その理由は彼が先ほど言っていたもの――冒険者ギルドに盗賊団退治を頼む。
「なるほど、そういうことか」
老人が説明と共に見せてくれた金額は、およそ二万エン。
冒険者ギルドが動く金額は、およそ五十万エンからだ。
(事情が事情だから、これしかお金を集められなかったんだろうが……これじゃあ冒険者ギルドに行ったところで、追い返されるのがいいところだな)
最悪、金だけ取られて追い返される。なんてことも充分ある。
そして、そのことはユウナも思ったに違いない。
「ジークくん、この人の村のこと……あたし達でどうにかできないかな?」
「そうだな……」
ジークが気になったのは、首領の名がブランであるということ。
これは高確率で、その村に居るのは白竜傭兵盗賊団で間違いない。
今回の件も、冒険者ギルドと繋がっているのか……それとも、白竜傭兵盗賊団単独の行動なのかはわからない。
けれど。
「あぁ、この件は俺達でなんとかしよう。ブランって奴には貸しがあるしな」
「ジークくんっ……そう言ってくれると思ったよ! えへへ、傷ついている人が居たら、あたしが治すから任せてね! もちろん、ジークくんのことも♪」
と、嬉しそうなユウナ。
ジークはそんな彼女の頭を撫でた後、老人へと言う。
「正直に言うと、二万エンじゃ冒険者ギルドは絶対に動いてくれない」
「そ、そんな――」
「だから、今回のその依頼は代わりに俺達が受けよう。もちろん金もいらない」
「ですけど、それはその……」
「俺達の強さを心配しているなら、大丈夫。こう見えても俺達は強い。そこに居るピンク髪の女の子だけでも、盗賊団を壊滅させられるだろうな」
「信じても……任せてもいいのですじゃ?」
と、真剣な様子の老人。
ジークはそんな老人の近くへしゃがみながら、彼へと言葉を続ける。
「魔王はくだらない嘘は使いない、だから安心して任せろ。それよりも今は、ほら――俺がおぶっていくから、村まで案内してくれないか?」
「お、おぉ! おぉ……本当に、本当にあなた様は神様ですじゃ!」
と、ジークの提案通り、背に乗って来る老人。
そして。
「♪」
と、機嫌よさそうにジークを見ているユウナ。
きっと彼女は、ジークの行動をまた内心褒めているに違いない。
(この爺さんを普通に歩かせると、時間効率的によくなさそうだから、おんぶしようと思っただけなんだけどな……)
まぁ、いちいち言うことでもあるまい。
ジークがそんなことを考え、歩き出そうとすると。
『いいんですか、魔王様?』
と、ジークの脳内に直接響くアイリスの声。
魔法を使っているに違いない彼女の声は、さらに続く。
『わかっていますよね? そのお爺さん――』
『わかってるよ、だから安心してついてきてくれ』
『いや、そうではなくてですね! だったら、そもそもどうして行く必要が――あぁ、もう! わかりましたよ、魔王様に従いますよ!』
『アイリス、俺のことをいつも心配してくれて、本当にありがとう』
『え、やだ……かっこいい。魔王様今の、本当にかっこいい♪』
直後、ジークの脳内に送り付けられ始めたのは、大量のけしからん動画。
アイリスの妄想の産物が、魔法を通してジークの脳内で再生されているのだ。
「ちょっ!?」
「魔王、様――いいです……最高っ」
「アイリスさん、急にどうしたの?」
「?」
頭からけしからん動画を追い出そうとするジーク。
動画の送り主であるアイリス。
そんな彼女に疑惑の視線を向けるユウナ。
そして、不思議そうな顔をする老人。
そんな四人は、件の村へ向けて歩を進めるのだった。
さて……これは毎回、言ってることなのですが
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