第五章 圧倒的な力の差6
「お、おい! て、てめぇ! それ以上動くな!」
と、聞こえてくる声。
ジークがそちらを見ると、そこに居たのは。
「一歩でも動いたら、少しでも抵抗したらこいつの首にナイフを突き立てるぞ!」
と、村娘の後ろから組みつき、彼女を人質に取る盗賊だ。
仲間達が倒されている間、ずっと隠れて様子を窺っていたに違いない。
その戦法も、今している行為も……どちらもジークを不快にさせる。
(というか、そもそも最初から一歩も動いてないんだがな。もっとも、こんなやり方をしてきた以上、俺も少し方針を変えさせてもらうが)
などなど。
ジークがそんなことを考えていると――。
「あはははは! 勘弁してくださいよ! 魔王様が、人間の人質なんか気にするわけないじゃないですか!」
「な、なんだと!? こ、こいつが殺されてもいいのか!」
聞こえてくるアイリスと盗賊のやり取り。
盗賊はアイリスの言葉でビビったのか、ジークへと言ってくる。
「さ、下がれ! もっと下がれ! 俺から見えなくなるまで、後ろに行け!」
「おいおい、そんなに長い距離を後ろ歩きさせるなよ。いったい何分かかるのやら」
「う、うるせぇえええええええ! ば、バカにしたな! てめぇ、俺をバカにしたな!?」
と、盗賊はビビり過ぎて精神が不安定に違いない。
盗賊はそのまま、人質の首にナイフを突き立てようとする。
だが――。
盗賊のナイフは、人質の首に刺さる手前でピタリと止まる。
その理由は簡単だ。
「な、なんだこれ!? なんだこれぇえええええええ!? か、体が……俺の身体がぁああああああああああああああああああああああああ!」
と、慌てた様子の盗賊。
ジークはそんな盗賊へと言う。
「下位闇魔法 《メデューサ》――対象を石に変える魔法だ。これでお前の首から下を石にした。これで人質に手は出せな……」
ここでジークはとあることに気が付く。
盗賊は現在、人質を拘束したまま石になっている。
そのため、人質が拘束から抜け出せなくなってしまっているのだ。
であるなら仕方ない。
と、ジークは盗賊へと近づいていき。
「あぎゃぁあああああああああああああああ!? 俺の腕がぁあああ――!?」
聞こえてくる盗賊の悲鳴。
この盗賊、大げさなやつだ。
(体が石になっているんだから、痛みなんて感じるわけがない。どう考えても、ここまで叫ぶことじゃないだろ)
と、ジークはそんなことを考えながら、人質の少女を救出。
その後、彼女をアイリスへと託す。
さて、あと残っている仕事は――。
「た、助けて……お、俺の……か、返して……」
と、泣きながら言ってくる盗賊。
ジークはそんな盗賊へと言う。
「お前らの仲間が、さっきエミールの事を話していた。率直に聞くけど、お前たちはエミールと繋がっているだろ?」
「っ……だ、だから、なんだ……それより、は、早く腕!」
「少しは隠せよ。そんなに自分が大事か?」
「あ、当たり前だ! い、いいか!? お、俺を殺せば大変なことになるぞ! そ、そうだ! 俺が死んだら……白竜傭兵盗賊団本体が動く! ぶ、ブラン様が絶対に――」
「そういうのはどうでもいい。勝手に喋るな、死にたいのか?」
ジークが言うと、ぶんぶん首を振る盗賊。
ジークはそんな盗賊へと言葉を続ける。
「そうだな……お前が全部話したら、命だけは助けてやるよ」
「ぜ、全部?」
「今回の件全部だ。特にエミールと繋がっているのかどうかとかな」
「そ、そうすれば……か、体も全部――」
「あぁ、安心しろ。何も心配することはない」
「あ、ありがてぇ……」
と、先ほどまでのブランへの態度はなんだったのか。
盗賊は次々に、聞いていて胸糞悪くなる話をし始める。
それはこんな感じだ。
昨晩、エミールから白竜傭兵盗賊団の首領ブランに依頼があった。
内容は――。
『きっとジークたちは、近くの村に泊まる。だから、村ごと焼き払って殺せ』
というもの。
けれど、到着するとジーク達はもう村を出ていた。
下っ端の盗賊達にとっては、とんだ無駄働きだ。
そこで彼らは、暇つぶしに村の略奪と破壊を楽しんだそうなのだ。
「カスだな」
「へ、へへ……こ、これからはなるべく心を入れ替えるよ」
と、媚びへつらった様子の笑みを浮かべてくる盗賊。
きっと、ジークに取り入ろうとしているに違いない。
(本当に不愉快なやつだな。話を最後まで聞くだけでも、かなり不快だったのに)
ジークはそんなことを考えた後、盗賊へと背を向ける。
そして、アイリスの方へと歩き出した直後。
「な、なぁ! ちょっと待てよ! お、俺のこと助けてくれるんだろ!? お、置いていかないでくれよ!」
と、言ってくる盗賊。
ジークは振り返り、そんな盗賊へと言う。
「ん、あぁそうだったな」
「お、おいおい困るぜ……早く治してくれよ!」
「あぁ、少しだけ待ってろ。すぐにお前の心配を取り除いてやる」
と、ジークは盗賊の方へと手を翳す。
すると、盗賊の周囲に漂いだすのは、闇色の霧。
それらは次第に、無数の剣へと変化していく。
「な、なぁ……ほ、本当に助けてくれるんだよな!?」
と、言ってくる盗賊。
盗賊はジークと彼の使う魔法から、不穏な気配を感じたに違いない。
なかなかいい勘をしている。
「悪いな、あれは嘘だ――下位闇魔法 《ペイン》!」
「は……ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああ!?」
と、ジタバタしながら言ってくる盗賊。
盗賊の反応も当然だ。
なぜならば、その身体には無数の剣が突き刺さっているのだから。
「その槍は身体に直接ダメージを与えるものじゃない。お前の魂を傷つけ、壊す類の魔法――いわゆる呪いみたいなものだ」
つまり、このまま痛みに耐えかね絶命したとしても、痛みに終わりはない。
いつの日か転生したとしても、痛みは永遠に続くのだから。
それが、魂が傷つくということだ。
「お前はクズだ。盗賊とはいえ、仲間がやられているのを隠れて見ていた。終いには人質を取る……自分の愚かさを、未来永劫――死んでからも後悔するんだな」
けれど、もはや盗賊はジークの声を聞いていないに違いない。
盗賊はすでに、ピクリとも動かなくなっているのだから。
ジークはそれを見たのち、後ろに居るアイリスへと言う。
「エミールは勇者じゃない」
「はい、魔王様がそう思われるのなら、その通りかと」
「俺はあいつにチャンスをやった」
「魔王様の寛大な心にこのアイリス、感服いたしております」
「エミールが生きていることがもう、俺には我慢できない。あいつの存在は、ミアの全てを汚している」
「では、次の目的地は――」
冒険者ギルド――ルコッテ支部。
勇者ミアの末裔、エミール・ザ・ブレイブ七世がマスターを務めるギルドだ。
さて、時は同じく。
ジーク達から離れた場所。
「ち、ちくしょう! あいつら全員倒されやがった! おい、魔法であいつらの会話の内容は聞き取れたか!?」
「おう! ルコッテの街だ、間違いねぇ! エミール様とブラン様に報告しねぇと!」
盗賊達のそんなやりとりが、なされているのだった。
さて……これは毎回、言ってることなのですが
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冗談抜きで、執筆するモチベーションに関わって来るレベルです。
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