第五章 圧倒的な力の差
翌日、早朝。
場所は変わらず宿屋――その食堂。
現在、ジーク達は朝食を取りながら、話し合いをしていた。
主な議題は、昨夜二人とした話を、改めて共有するといった形だ。
そして、ジークはもうすでにあらかた話終えたところ……なのだが。
「なるほど、闇の紋章があれば、宿魔人かどうか簡単に見極められる。それを利用して、とりあえずは仲間集めをしようというのは理解できました――実際、ホワイト・ルナフェルトの宿魔人あたりを仲間にできれば、百人力ですからね」
と、ジークの向かいの席から言ってくるのはアイリスだ。
彼女はもぐもぐと、朝からお肉を頬張りながら、ジークへと続けてくる。
「それが昨日、私とイタす前に言いたかったことですか?」
「あのなアイリス……頼むから、こういう場所で普通のトーンでそういうことを言わないでくれ」
「え~いいじゃないですか~♪ 色々な人に教えちゃいましょうよ!」
「ダメだよ、アイリスさん! ジークくんが困ってるよ!」
と、ジークに加勢してくれるのは、彼の隣に座っているユウナだ。
アイリスは「むぅ~」っと口をとがらせた後、ジークへと再び言ってくる。
「それで魔王様。宿魔人に過去の記憶と力を取り戻させるのは、どうするんですか?」
要するに。
アイリスが言いたいのは、こういうことに違いない。
宿魔人はそのままだと、精々普通より魔力が強いくらいの人間。
ジークの様に《隷属の剣》の仕掛けで、一手間費やさなければ記憶も力も戻らない。
なのに、どうやって宿魔人に記憶と力を取り戻させるんですか。
正直。
このアイリスの質問――。
「ものすごくいい質問だ」
「え~もう♪ やだ~、褒められちゃったじゃないですか~♪」
と、くねくねし始めるアイリス。
ジークはそんな彼女へと言葉を続ける。
「そこは魔王としての特性を頼ろうと思うんだが、アイリスはどう思う?」
「魔王としての特性って……あぁ、触れた魔物の力をしばらくブーストするやつですか?」
「そう、あれを使えば宿魔人の中に眠る『魔の部分』を増幅させることが出来ると思ってる。そうすれば、かつての記憶と力も何等かの刺激を受けるんじゃないか?」
「なるほど。闇の紋章が現れるのは、強すぎる『魔』が転生後も残っているからだと言われています。そこを強めれば『魔』が『今』を侵食する可能性は充分ありますね」
と、シャキッと参謀らしい顔つきのアイリス。
こういう時のアイリスは、本当に頼りになる。
現在、彼女は本をじっと見おろし、一人何かを考えている。
きっと、先ほどジークが考えた案をふまえ、何かの参考書を読んでいるに――。
「これ……今度、魔王様とのプレイで試してみますか」
と、一人呟くアイリス。
彼女が読んでいるのは、男女が仲睦まじくしている本だった。
どうやら、ジークはまだまだ部下のことを理解できていなかったようだ。
と、ジークがため息を吐いたのに、気が付いたに違いない。
アイリスはピクンっと体を揺らし、すぐさまジークへ話しかけてくる。
「あ、別に魔王様とすることだけ考えてたわけじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!」
「なんだ、その口調……」
「え、魔王様知らないんですか!? ツンデレですよ、ツンデレ! とりあえずこの口調をしておけば、男はみんなイチコロなんですよ!」
初耳だ――アイリスはいったいどこから、こういう情報を仕入れてくるのか。
と、ジークがそんなことを考えていると、彼女は再びジークへと言ってくる。
「ところで魔王様! 宿魔人のことは納得しましたよ! っていうか、魔王様の素晴らしい作戦とお考えに、尊敬感激同調の雨嵐ですよ……でも!」
スビシ!
っと、アイリスはジークの隣に座るユウナを、まっすぐに指さす。
ユウナがいったいどうかしたのだろうか。
ちなみに彼女は絶賛、朝食のサラダを食べており、特におかしなことはしていない。
実際、当のユウナもきょとんっといった様子で、アイリスを見ている。
「そんな顔しても私は騙されませんからね!」
と、一人ボルテージを上げているアイリス。
彼女はユウナを指さしながら、ジークへと言ってくる。
「ユウナを真の勇者にするってどういうことですか!?」
「あー、なんだ。そのことか――どういうもなにも、話したままの意味だ」
「そうなんですよ! そのことなんですよ! 話したままじゃ理解できないんですよ!」
バンバン。
バンバンバン。
っと、テーブルを両手で叩きまくるアイリス。
彼女はさらにジークへ続けてくる。
「どこをどう捻ったら、ユウナが光の紋章の持ち主で、将来勇者になるって話が出てくるんですか!? いいですよ、別に! 真の勇者を作り出して、魔王様がそれを倒す――その計画自体は大賛成ですよ!?」
「じゃあ、アイリスは何がそんなに引っかかっているんだ?」
「魔王様の話を疑うわけじゃありません! でも、こんなひょろっちいのが、魔王様を楽しませる勇者になるなんて、信じられないんですよ!」
おほんっ。
と、一拍おいてアイリスはさらに続けてくるのだった。
「率直に言いますよ、魔王様。真の勇者詐欺にあっていませんか? 偽の光の紋章翳して『ほらほら、俺が真の勇者だぜ!』的な奴ですよ!」
さて……これは毎回、言ってることなのですが
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