第四章 少女の対抗心3
(そうだ、ミアにも、この光の紋章は刻まれていた。たしか俺が昔読んだ書物によると、この光の紋章には――)
世界がどうしようもなく乱れ、人々が危機に陥った時。もっとも綺麗な心を持つ者に、この光の紋章は現れる。
そして、この紋章が現れた者はいずれ凄まじい力を手にし、世界を救済する。
(俺の記憶が正しければ、そんな意味があったはず)
つまり、ユウナは真の勇者ということになる。
伝説の勇者ミア・シルヴァリアの末裔といった、血筋だけのなんちゃって勇者ではない。
いずれミアと同格になる選ばれし存在。
(今の世の中は勇者の末裔と、冒険者達のせいで乱れきってる。そこに魔王である俺も転生したとなれば、光の紋章が現れる条件は整ってるか……ん、待てよ)
ジークはここでふと。
かつてユウナから聞いた言葉を思い出す。
『ネックレスの所有者は常に世界の平和を見守って、もしも世界が乱れた時は立ち上がらないとダメなんだって』
『最初の所有者は、とってもすごい人だったんだって。特別な力を持っていて、その力を人を救うためだけに使った人……その命が尽きるまで、世界の平和を守った人』
「なるほど、そういうことか」
ユウナが言っていたことは、勇者の力の継承のことだったのだ。
さすがは伝説と呼ばれる勇者、ミア・シルヴァリア。
彼女は世界が再び乱れた時を想定して、後継者を残しておいたのだ。
そして当代――世界が最も乱れた時代に産まれたユウナ。
彼女が光の紋章を宿し、真の勇者として覚醒し始めているというわけだ。
(俺を倒した奴だけあって、あとのことも抜かりない……称賛以外の感情が出てこない。だけど、本当に残念だ)
今の時代に蔓延る似非勇者。
血筋というだけで偉ぶり、悪逆非道を働く偽物共。
(ユウナが伝え聞く伝承によると――真の勇者は俺を倒した後も、死ぬまで世界のために尽くしたんだ。まぁ、あいつは正義感の塊だったし、正義を貫く強さを誰よりも持っていた……なんせ、俺を倒したくらいだ。そういう生き方をして当然か)
けれど、その生き方の結果がこれ。
まるで報われていない。
作り上げた平和を、自らの子孫によって壊された真の勇者。
バカみたいだ。完全なる間抜け。
(だからこそ許せない……この時代の勇者たちが)
それにしても、ジークとしてはここに来て余計にやる気が出た気分だ。
これはある意味、敵討ちにもなるのだから。
(この時代の勇者を絶滅させることは、きっとミアのためにもなる)
ジークは五百前、真の勇者ミアに負けた。
であるなら、この世界は勝った者の望み通りになっているべきだ。
(平和にするとか、幸せな世界にするとか……そこまでは面倒みれないが、敗者の務めとして、やることはやってやろう)
ミアの理想を汚す現代の勇者。
やはり奴らは絶滅させる。
(なによりミアを汚すほどに弱く、私欲にまみれたあいつらは――待て、待て待て待て)
ここでジークは再び気が付く。
それがどんなことかと言うと――。
まず、ジークは現代の勇者にあらゆる意味で失望している。
代表的なもの二つは――ミアを汚している点。そして、わざわざ復活したジークを、まるで満足させられない実力しか持っていない点。
ジークはこれらを解決する唯一の方法を思いついてしまった。
(だったら俺の手で、俺のライバルに相応しい勇者を育てればいいのでは?)
雑魚勇者を間引きつつユウナを育成していけばいい。
そうすれば最終的に残るのは、真の勇者として覚醒したユウナに違いないのだから。
「これは……」
控えめにいってこれ。
完璧なのでは?
「そうだ、これで行くしかない! これならば俺のためにも……そして、五百前のあいつのためにもなる!」
「じ、ジークくん!? 急に黙ったと思ったら、いきなりどうしたの! 大丈夫!?」
この日、ジークは未来の真の勇者に心配されながら、唯一の希望を見出すのだった。
さて……これは毎回、言ってることなのですが
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