表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

204/207

アハトの災難8

 時はすっかり夕方。

 場所は件の茶の前。


「アイリスお姉ちゃん! 今日は沢山お話を聞かせてくれてありがとう!」


 と、狐尻尾をふりふり言うのは柚だ。

 彼女はキラキラ瞳で、さらに言葉を続ける。


「それとそれと、アハトお姉ちゃんも本当にありがとう! とっても楽しかった!」


 さて。

 現在がどういう状況かと言うと。


「それじゃあバイバイ! また遊んでね!」


 と、手を振って楽しそうな様子で去っていく柚。

 要するにそう。


「っ……どうしてこうなった」


 と、頭を抱えてアハトの隣で蹲っているアイリス。

 そんな彼女の当初の計画――『ミアの悪い所教える作戦』は大失敗したのだ。

 

 無論、アイリスは何度も仕掛けに行っていた。

 それにかかわらず失敗した理由は簡単。


(アイリスの感性は悉くずれていましたね……)


 アイリスが考える『ミアカッコ悪い象』は、あくまでアイリスから見てだったのだ。

 例えば――。


『ミアってば、魔物に包囲された砦に一人で出向いたんですよ! しかも、たった数人の兵士を助けるためだけに……ぷぅ~~~~! クソダサいですよね!』


 といった感じだ。

 なるほど、アイリスからすればすごくカッコ悪いに違いない。

 しかし、柚にとってはそうではなく。


『わぁ~~~~! すごいすごい! それでどうなったの!?』


 といった返しが延々に――夕方まで続いた感じだ。

 そしてその結果が。


「うぅ……魔王様、申し訳ありません。このアイリス……右腕とは考えられない失態をしてしまいました」


 と、珍しくもシュンとしている様子のアイリス。

 なんだか可哀想になっていた。


 さすがに少しフォローしてあげた方がいいかもしれない。


 などなど。

 アハトはそんな事を考えた後、アイリスへと言う。


「アイリス。おまえはよくやったと思いますよ」


「…………」


 と、未だにしょげている様子のアイリス。

 アハトはそんな彼女へとさらに言葉を続ける。


「結果はどうあれ、しっかりジークのために働いたではありませんか。それにそもそも、おまえ柚にした話はとてもいい話で――」


「ですよね!」


 ニパッと唐突に微笑むアイリス。

 彼女はニコニコ笑顔で、アハトへと言ってくる。


「いや~~~! この程度の失敗とも言えない失敗でしょげるなんて、このアイリスらしくないですよね! それにそもそも、たいして失敗してませんし!」


「その通りです。それに先ほど言いかけましたが、おまえの話はとてもいい話でした。勇者ミアの勇気と慈愛……そしてその強さが存分に語り継がれ――」


「あ! そこに居るのは魔王様じゃないですか! 魔王様~~~~~!」


 と、駆けて行ってしまうテンション爆高のアイリスさん。

 まぁ、元気が出たのなら何よりだ。


(わたしもそろそろ行きますか……今日は沢山お話したので、少し疲れました)


 などなど。

 アハトも魔王ことジークの元へ向かおうとした。

 まさにその瞬間。


「お代」


 と、聞こえてくるおばあちゃん狐娘の声。

 アハトが声が聞こえた方へと振り返ると――。


「食い逃げは許さないよ! あんた、柚たちの連れだろ? しっかりお代を払ってもらうからね!」


 と、ジトっとした様子でこちらを見てくる声の持ち主。

 そういえば、柚はもちろんアイリスもアハトもまだ金を払っていなかったのだ。


「これは申し訳ありません。すぐに払わせていただきます」


 言って、アハトは財布をスタンバイ。

 そして事件は起きた。


「特盛パフェが十七個。みたらし団子が九個。あん団子が八個。お茶が数え切れないくらい……あのピンク髪の子、よく食べるね」


 と、そんな事を言ってくるおばあちゃん。

 なるほど。


「っ」


 と、途端に震え出すアハトの身体。

 まずい。


アハトの財布に入っているのは、五百エン玉が二枚。

 そして、千エン札が一枚だ。


 アイリスは沢山もっていた。

 アイリスが持っていたからこそ、今までは余裕があったのだ。

 つまり。


(アイリスが居ない今、払えない……払えるわけがない)


 いったいどうすればいいのか。

 このままでは無銭飲食になってしまう。


 嫌な汗がとめどなく出てくる。

 そして、その気配をおばあちゃんは悟ったに違いない。


「代金……なかった働いてもらうよ」


 ジトーと言った様子のおばあちゃん。

 やれやれ。


 これはもう仕方がない。

 ジークに言えば払ってくれるに違いないが、それはプライドが許さない。

 アハトは「よし」と、心の中で言った後おばあちゃんへと言うのだった。


「代金分以上に働かせていただきます」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ