アハトの災難6
時はあれから少し後。
場所は件の茶屋の四人席。
席の並びはアハト、その向かいに柚、そして柚の隣にアイリスといった感じだ。
「さてさて、では飲み物も届いたことですし、本題に入ろうじゃありませんか!」
と、聞こえてくるのはアイリスの声だ。
彼女はニッコリ笑顔で、柚へと言う。
「まずはどんな話から聞きたいですか?」
「うーんとね……うん! ユウナ様の話から聞きたい!」
と、元気よく柚。
アイリスはそんな彼女へとさらに言葉を続ける。
「おや? ミアの話はいいんですか? 私はミアに会ったことがあるので、とっても詳しく話せますよ! そう、ミアの意地汚いところとかも全部!」
「うーん……でも」
「ほらほら! ミアの話にしましょうよ!」
「えっと、じゃあ――」
と、アイリスの圧に押されている様子の柚。
アハトはそんな二人のやり取りを見て、ふと思った。
(ひょっとして、アイリスが狙っているのは……いえ、そうとしか考えられません。そうでなければ、アイリスがこうもミアの話をしたがるわけがない!)
アハトが引っかかったのは、先のアイリスの言葉。
『ミアの意地汚いところとかも全部』という部分だ。
アハトがジークから聞く限り、ミアに意地汚い部分などない。
要するに、アイリスは柚に『嘘のミア』を刷り込む気なのだ。
なるほど。
確かにアイリスは心変わりしたに違いない。
ただし。
(てっきり狐娘族である柚に、嫌がらせをする方向かと思いましたが。そうではなく、『柚がミアを嫌う様に仕向ける』方向にシフトチェンジしたわけですか)
おおかた、柚に信じ込ませた『悪いミア』。それを、彼女を使って狐娘族に拡散させてやろう――とか考えているに違いない。
しょうもない。
だがしかし、アイリスは嫌いな相手にならば、どんな事でもする。
アハトにはその確信がある。
(放っておくわけには行きませんね)
仮に柚が『悪いミア』の話を聞き、それを拡散したとする。
それでも、狐娘族全体がもつミアのイメージが悪くなるとは思えない。
しかし。
(柚に嘘を教え込ませるわけには行きません!)
などなど。
アハトはそんな事を考えた後、アイリスの話へと耳を澄ますのだった。
変な事を言ったら、すぐに突っ込めるように。
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