アハトの災難5
「実は私、ミアと会った事があるんですよ! なので、この私――アイリスが全てを教えてあげようじゃあありませんか!」
「わぁ、本当!?」
と、聞こえてくるのはアイリスと狐娘族の少女――柚の声だ。
アイリスは柚へとさらに言葉を続ける。
「ではでは、さっそく話を聞かせてあげましょうじゃありませんか!」
「うん!」
「でも立ち話はなんですから、そこの茶屋に入ろうじゃありませんか!」
「うん……でも……」
「はて、どうしたんですか?」
「柚、お金ない……」
「あは♪ やっぱり狐は貧乏なんですね! でも安心してください! このアイリスが、あなたの分も払ってあげましょう!」
「わぁ、本当!?」
「もちろんですとも! このアイリスは世界で一番正直で、とても優しいサキュバスなので!」
ドヤァ!
と、胸を張っているアイリス。
こうなってくると、もはや怪しすぎて笑えない。
アイリスと狐娘族とのわだかまりを解く。
そんな事を考えていたアハトが、この様な事を考えてはいけないのだが。
(アイリスが狐娘族に優しくするわけがありません!)
だって、ついさっきまで『狐娘族絶対嫌いモード』だったのだから。
急にこんなに態度が豹変するわけがない。
(子供だから優しくしている?)
いや、それもない。
アハトとアイリスは短い付き合いだが、それでも容易にわかる。
アイリスは子供にだって、確実に容赦しない。
「ほらほら、行きますよ!」
「わーい!」
と、聞こえてくるアイリスと柚の声。
とりあえず、このままでは何かやばい。
故にアハトはアイリスの傍へと歩いて行く。
そして、アハトはそのまま彼女へと小声で――柚に聞こえてない様に話かける。
「どういうつもりですか?」
「はて、どういうつもりとは?」
と、そんな言葉を返してくるアイリス。
アハトはそんな彼女へと言う。
「柚に何をするつもりかと、そう聞いているのです」
「さっきから言っているでしょうが! アハトはこの私の話を、聞いていなかったんですか?」
「聞いていました――狐娘族が好きではないと」
「あは♪ 心変わりですよ! 心変わり!」
「…………」
「もう、なんですかその目は! さっきから、仲間の私を疑っているんですか!? アハトってば酷いですよ! 私の心はズタボロです!」
「っ……そ、それは――」
「お姉ちゃん! 早く~!」
と、少し離れた位置から聞こえてくる柚の声。
アイリスはそれをチラリと見た後、不敵な笑みでアハトへと言ってくるのだった。
「さぁ、勇者について教えてあげようじゃないですか……たっぷりとね」
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