第四章 少女の対抗心
時は『ユウナ奴隷宣言事件』から数十分後。
ジークはあれから、ユウナをなだめ続けていた。
そして現在。
「少し落ち着いたか?」
「う、うん……ごめんね、アルくん」
と、照れた様子のユウナ。
彼女をもじもじ、頬を染めながら言ってくる。
「隣の部屋に居たらなんていうか。その、変な音が聞こえて目が覚めたから、いてもたってもいられずに来ちゃった……でも、アルくんが何ともなくて、本当によかったよ!」
と、ほっとした様子のユウナ。
ジークはその言葉がどうにも引っかかり、彼女へと言う。
「何ともなかったって、どういうことだ?」
「あ、えっと……ほら、アイリスさんは話した感じ、とってもいい人そうだけど――」
「淫魔だから、俺が襲われているんじゃないか……そう思った?」
「うん。疑おうとしたわけじゃないんだけど、やっぱり心配になっちゃって――そしたら、あんな事になっててビックリしちゃって、本当にごめんね?」
「いや、いいよ。俺を心配してくれたなら、嬉しい」
それに、ユウナが抱いている思いはジークにも責任がある。
なんせ、ジークはここまでユウナに何の説明もしていないのだから。
「ところでアルくん、今更なんだけどアイリスさんって誰なの? なんでアルくんのことを、魔王様って呼んでるの? それになんだか、アルくん……ちょっと雰囲気変わってるよね? 口調とか結構違うし……」
まるでジークの内心を読み取ったかのようなユウナの言葉。
ちょうどいい機会だ。
ジークは彼女へと、五百年前の出来事について。そして、最近起きたあらかたの出来事を全て説明していくのだった。
「とまぁ、俺が魔王と呼ばれている理由はそんな感じだ」
「えっと、じゃあジークくんって呼んだ方がいいのかな?」
と、ジークの隣に腰掛け、首をひょこりと傾げてくるユウナ。
ジークはそんな彼女へと言う。
「さっきも言ったけど、俺は完全にジークになったわけじゃない。アルだった時の記憶や感情も混在している。だから、呼び方は自由でいい――強制するほどのことじゃないからな」
「でも、ジークくんって名前の方がしっくりくるんでしょ?」
「それは、まぁ」
「じゃあ、ジークくんって呼ぶよ! 優しくて、勇敢なあなたにピッタリな名前だし!」
と、ころころ感情豊かな笑みを浮かべるユウナ。
彼女は「でもさ……」と、安心したように溜め息をつき、ジークへと言ってくる。
「例え魔王と混じっても、ジークくんが意味もなくあんなことするのは、ちょっとおかしいなって思ってたんだよ――さっきも聞いたけど、その《隷属の証》のためなんだよね? うん、納得!」
「それは……信頼してくれてありがとう、っていうべきなのか?」
「ん~、わかんない!」
と、再び弾けるような笑みを見せてくれるユウナ。
なんだかよくわからないが、安心してくれたようで何よりだ。
ジークがそんなことを考えていると、ユウナが再び言ってくる。
「そういえば今更なんだけど、ジークくんって魔王になっても変わらず優しいんだね」
「俺が……優しい?」
「うん、とっても優しいよ。少なくとも、あたしが知っている他の誰よりも優しい」
「…………」
そんなことを言われたのは初めてだ。
五百年前のジークはどうだっただろうか。
と、ジークがそんなことを考えようとしたその時。
「だってさ、ジークくんはあたしを助けてくれたから……あたしのためにエミール達に立ち向かってくれたから。あの時のジークくん、とってもかっよくて、優しい感じがしたよ」
と、言ってくるユウナ。
ジークはそんな彼女へと言う。
「あれは……あの時も言ったが、ユウナの為にだけやったわけじゃない」
「さっき言ってた『現代の勇者が目障りだから』って奴かな?」
「あぁ、そうだ。俺は『俺を倒した伝説の勇者ミア』の名を汚す『今の勇者』が、どうしても許せない。俺のライバルを、奴をライバルと思っている俺自身をもバカにされている気が――」
「ジークくんがイライラしているのってさ、本当にそこなのかな?」
それはいったいどういう意味だ。
と、ジークが言葉にする前に、ユウナは再び言ってくる。
「ジークくんが憧れてるお父さんは、ずっと『人のため』を貫きとおしたんだよね?」
「…………」
「今の勇者と冒険者は、困っている人からも大金を取ることしか考えていない。それどころか、盗賊まがいのことをする人達も沢山いる……それでも、ジークくんのお父さんは、最後まで無償で、人助けを続けた」
「つまり、俺が怒りを感じているのは――」
「現代の勇者達が人々を苦しめているからじゃないかな? 苦しんでいるのに手を差し伸べないで、踏みつけにするようなことをしているからじゃないかな?」
そんなこと、考えたこともなかった。
いや、アルだった時は考えていたかもしれない。
そうだ、冒険者アルは常にそう考えていた。
だったら、そのアルと交じりあったジークも当然――。
「ジークくんはさ、とっても優しいんだよ。エミール達に立ち向かった時も、きっと本当はあたしのために怒ってくれたんだよ……とっても優しくて、とっても勇敢な人」
と、ユウナは徐々に顔をジークの方へと寄せてくる。
ジークは思わず、そんな彼女へと言う。
「ユウナ?」
「女の子はね、そういう男の子のこと……簡単に好きになっちゃうんだよ?」
「俺は――」
「だから、ね? あたしにも《隷属の証》、刻んで欲しいな?」
さて……これは毎回、言ってることなのですが
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