アハトの災難3
「わたしが、おまえと狐娘族のわだかまりを解決しましょう――わたしが憧れるミアならばきっと、そうするでしょうから」
「な、なん……だと!?」
と、アハトの言葉に返してくるアイリス。
彼女は露骨にわざとらしく、びっくりした様子でアハトへと言葉を続けてくる。
「つまり、精神操作魔法の使い手であるこの私を、何かしら手段で洗脳する……ってことですね!」
「はぁ……どうしてそうなるのですか?」
「あは♪ そんなの決まってるじゃないですか!」
と、悪魔尻尾をふりふりアイリス。
彼女は楽しそうな様子で、悪魔羽をぱたぱた言葉を続けてくる。
「私に狐娘族とのわだかまりなんて、そんなもの存在していないからですよ!」
「そんなことはないでしょう?」
と、アハトはアイリスへと返す。
アハトはさらに続けて、アイリスを論破するために言う。
「実際おまえは、狐娘族を嫌っているではありませんか」
「その通りですよ! 私と狐娘族の間にあるのは『わだかまり』ではなく、圧倒的絶対的完全無欠の『嫌悪』ですよ!」
「…………」
「だってあの狐共、魔王様を裏切ってミアちゃんに付いちゃったんですよ!? そんなの許せるわけがあるだろうか……いやない!」
「…………」
「魔王様が至高! 魔王様の敵は私の敵! 魔王様の前に立つ者は全員許さん!」
「その結果、ジークが悲しんで――」
「おっと! 最後まで言わせませんよ! 私の心に攻撃しても無駄無駄の無駄です!」
と、アハトの口に指を突きつけてくるアイリス。
そこでアハトはアイリスの指をどけ、さらに続けて彼女へと言う。
「さきほども思ったのですが、本当は『悪い事』だと思っているのではないですか?」
「悪い事?」
「狐娘族を嫌う事がです。彼女達がジークを裏切ったのは五百年前――しかも子孫である彼女達には、何も関係がないことですよ?」
「魔王様に敵対した罰は五百年経っても時効なんてないんですよ! そう……その血に流れる宿命のようなものです!」
「おまえも頑固ですね……あまり狐娘族を嫌うとジークが悲しむと、本当はわかっているのでしょう?」
「そ、それとこれとは話が別なんですよ!」
「いや、全く同じことだと思いますが。そもそも――」
くいくい。
くいくいくい。
と、アハトの思考を断ち切る様に引かれる袖。
見ればそこに居たのは――。
「お姉ちゃん達、勇者様の仲間なの?」
もふもふ狐尻尾。
もふもふ狐耳。
それらが特徴的な狐娘族……の子供だった。




