アハトの災難2
そうして場所は変わって宿屋前。
現在――。
「あは♪ 狐っくさい!」
と、第一声でそんな事を大声で言うのはアイリスだ。
当然、周囲から凄まじい視線が刺さってくる。
よって、アハトはすぐさまアイリスへと言う。
「どうしておまえは、そういう事を言うのですか!」
「え、だって狐っくさいんですもん!」
「そんな匂いはしません! というか仮にしたとしても、失礼だとは思わないのですか?」
「思う訳ないじゃないですか! だって相手は裏切り狐ですもん!」
べ~っと周囲の狐娘族へ舌を出すアイリス。
彼女の狐娘族嫌いは相当なものに違いない。
(アイリスの人間嫌いは知っていますが、狐娘族嫌いはそれ以上みたいですね)
たしかその原因は、狐娘族の裏切り行為だという。
なんでも五百年前、狐娘族は魔物なのにジークから離反した。
そして、勇者ミアの側についたそうなのだ。
「…………」
よくよく考えてみると、アイリスが嫌う要素しかない気がしてきた。
短い付き合いだが、アハトにはすでにわかる――アイリスのジークに対する好意と尊敬が。
だがしかし。
その裏切りはあくまで、五百年前の話だ。
しかも、当のジークは全く気にしていない様子。
(というより、ジークなら『面白い』とでも思っていそうですが……)
などなど。
アハトが考えている間にも。
「こらちょっと! そこの駄狐! な~に見てるんですか!? 私はこの街を救ってあげた魔王様パーティーの副リーダー――プリティサキュバスのアイリス様ですよ!?」
と、狐娘族にがんを飛ばしているアイリス。
なんにせよ、このままにしておけないのは確かだ。
故にアハトはアイリスへと言う。
「ジークが見たら悲しみますよ」
「え、なんでですか?」
と、言ってくるアイリス。
アハトはそんな彼女へとさらに言葉を続ける。
「というより落胆するかもしれませんね」
「だからどうしてですか! 私がやっている行為が正しくないわけあるだろうか……いやない!」
「ジークは狐娘族を恨んでいないように見えます。なのに、ジークが信頼しているアイリス――おまえが狐娘族に敵意を向けていれば、ジークはいったいどう思うでしょうか?」
「そりゃあ『俺の代わりによくやった!』って――」
「思うと思っていますか? 本当に?」
「うぐっ」
と、黙り込むアイリス。
どうやら彼女も、心の底では『自らの行いが間違っている』とわかっているに違いない。
ならば、アハトがする事は決まった。
「アイリス、この手を取りなさい」
「?」
と、アハトの言葉に首をかしげるアイリス。
アハトはそんな彼女に対し、さらに言葉を続けるのだった。
「わたしが、おまえと狐娘族のわだかまりを解決しましょう――わたしが憧れるミアならばきっと、そうするでしょうから」
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