アハトの災難
時は昼頃。
場所はイノセンティアの宿屋――その一室。
現在、アハトは珍しくもベッドでぬくぬくしていた。
具合が悪いわけではない。
寝坊でもない。
(ウルフェルトの一件も片付いたことですし、今日くらいはこうしてゆっくりしていても、バチは当たらないでしょう)
要するに、自分へのご褒美だ。
アハトは今日一日、ベッドから一切動かな――。
「暇ですか!? 遊びましょうよ!」
と、扉を開く音と共に聞こえてくるのはアイリスの声。
彼女はずんずん近づいて来ると、ベッドの真横から言ってくる。
「魔王様がユウナと出掛けちゃって、すっごい暇なんですよ!」
「わたしは暇ではありません。見ての通り、今日は休息中です」
と、アハトはアイリスへと返す。
すると、アイリスはすさかずアハトへと言ってくる。
「休息は暇ってことじゃないですか! だからほら、遊びに行きましょうよ!」
「……一応聞きたいのですが、遊びとは何をするつもりですか?」
「そんなの決まってるでしょうが! 冷やかしですよ!」
「……はい?」
「冷やかしですってば! 裏切り狐に嫌がらせをしに行くんですよ!」
「…………」
「だからほら、早く起きてくださいってば!」
ゆさゆさ。
ゆさゆさゆさ。
ぐいぐい。
ぐいぐいぐい。
と、ひたすらアハトを起こそうとしてくるアイリス。
だがしかし、アハトは負けたりなんかしない。
絶対にごろごろする!
その覚悟を決めているからだ。
などなど、アハトが不動の意を決めること――そして、アイリスがゆさゆさしてくる事数分後。
「あーもう! じゃあいいですよ!」
と、聞こえてくるアイリスの声。
同時、とてとてとアハトから離れていくアイリスの気配。
そして、彼女は扉付近から再びアハトへと言ってくる。
「もうすっごい事をしちゃいますからね! 裏切り狐に片っ端から精神操作魔法かけて、本物の狐みたいな精神状態にしちゃいますからね! そうしたら、全部アハトのせいってことですよ!」
「なっ!?」
と、思わず飛び起きるアハト。
そして、彼女はすぐさまアイリスへと言う。
「どうしてそうなるのですか!」
「そりゃあ私を止めないからですよ! そして、私の監督役として付いてこなかった罰に決まってるじゃないですか!」
「くっ」
まるで悪魔のような理論だ。
だがしかし、一理あることもなくはなくない気がしないでもない気がする。
「さぁ、どうしますかアハト?」
と、にやにや笑顔のアイリス。
アハトはため息交じりに彼女へと言うのだった。
「わかりました……しっかり監視させてもらいます」
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