ジークとユウナと狐娘族6
「ちょうどそこに茶屋がある、寄っていくか?」
「そうだね! ちょっと喉が渇いてきたし、ちょうどいいかも!」
と、ジークの言葉に返してくるのはユウナだ。
一方の八重はというと――。
「うぅ……」
と、なにやらモジモジしている。
ジークはそんな八重へと言う。
「どうした? なにか問題でもあるのか?」
「や、八重はその……」
「お前は誇りある狐娘族だ。俺が安全だと判断したとはいえ、やはり魔王と一緒に……というのは嫌か?」
「そ、そうじゃない! 八重は良い奴なら差別なんかしたりしない!」
と、狐尻尾をぴんっと立てて言ってくる八重。
だとすると、八重はどうして先ほどもじもじしていたのか。
などなど。
ジークがそんな事を考えていると。
「……ない」
ボソ。
っと、聞こえてくる八重の声。
彼女はしばらくすると、再度ゆっくりジークへと言ってくる。
「八重……お金が、ない。今日は特別な日だから、お財布を持ってきてないんだ……というか、ウルフェルトから取り返したお金がそもそも(ぼそぼそ)」
「特別な日?」
と、ジークは返す。
ジークはそのまま八重へと言葉を続ける。
「特別な日だと財布を持って来ないとは、いったいどういうことだ? 狐娘族にはそういう習慣でもあるのか?」
「狐娘族は関係ない! これは八重の問題なんだ!」
「なおさらわからないな。じゃあどうして――」
「今日は魔王を成敗するために外出したんだ!」
「…………」
「相手は魔王……八重は生きていられるかわからない!」
「だから?」
「お金……全部、その……周りの友達にあげちゃった」
「…………」
もはや何も言えない。
八重はポンコツというか、思い込んだら止まらないというか。
後先考えずに行動するというか。
要するに現在。
八重は一文無しという事に違いない。
(そりゃあ一文無しなら、財布持っていても意味ないからな)
しかも今日は八重にとって重大な戦闘がある日。
当然、荷物になるだけの財布など家に置いて来るに違いない。
というか。
理由がジークとなると、なんだか悪い気がしてきた。
となれば。
「安心しろ。茶屋の金は俺が全部払ってやる」
「本当か!?」
と、ジークの言葉に返してくる八重。
ジークはそんな彼女へと言う。
「あぁ。そもそも最初から、お前達に金を支払わせる気なんてなかったしな」
「……っ」
と、何やら狐尻尾をふるふるさせている八重。
彼女はしばらく溜めを作った後、ジークへと言ってくるのだった。
「魔王! すっごくいい奴だな!」
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