第十章 世界に光をもたらす者3
「じ、ジークくん! これ!?」
と、聞こえてくるのは戸惑った様子のユウナの声。
いったい何事か。
ジークがユウナの視線の先へと眼を向けると、そこに居たのは――。
老人だ。
それも骨と皮だけになり、風でも吹けば死んでしまいそうな。
「ぁ、ぅ……い、命」
と、かすれた声で言ってくる老人。
老人はジークの方へと手を伸ばしながら、さらに言葉を続けてくる。
「オ、レのい、のち……かえ、して」
「お前……ウルフェルトか?」
「あ……あ、い、のち……オレ、に……命……ほし、い」
「なるほど、やはりそういう事か」
おかしいとは思っていた。
ジークですら知らない呪術を使ってきたウルフェルト。
《勇者の試練》やミアの後継者の事も、全て知っていたウルフェルト。
要するに奴はこの時代の人間ではなかったのだ。
(俺と同じく、何百年も前に生きた人間)
ただし、ジークと異なり何百年も生き続けて来たのだ――人の寿命を奪い取りながら。
長きにわたり、呪術の研鑽を続けたからこそのあの力量。
まだミアの事が知れ渡っている時代に生きたからこその『勇者にかんする知識』。
なるほど、全て納得いった。
ジークはウルフェルトを睨み付けながら言う。
「お前は勇者じゃない。魔物ですらない――人の命を喰らう醜悪な怪物だ」
「しにたく、ない……命、オレに、ちょうだい――ころさ、ないで」
「あぁ、いいとも。俺はお前を殺したりしない」
言って、ジークはユウナの方へと歩いて行く。
そして、彼は彼女の手を引き、コロシアムを去るべく歩き出す。
「う、ウルフェルトさんを置き去りにしていいの!?」
と、慌てた様子で言ってくるユウナ。
ジークはそんな彼女へと言う。
「あぁ。もうあいつに用はない――これでアハトの寿命はもちろん、奴が吸い取った全員の寿命も戻った。それに狐娘族たちの《隷呪》や、奴に奪われた戦闘技術も解決したに違いない」
「でもだからって――」
「ここから先は、俺達の出番じゃない」
「え?」
と、ユウナがひょこりと首をかしげた。
その直後。
「ひ、ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」
と、背後から聞こえてくるのはウルフェルトの声。
ジークは最後に、少しだけ後ろを振り返る。するとそこに居たのは――。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「………………………………………………」」」」」」」」」」」」」」」」」」
無言でウルフェルトを囲むように佇む大量の狐娘族たち。
ウルフェルトの被害を一番受けたのは、ジーク達ではない――狐娘族たちだ。
であるならば、最後の裁きは狐娘族たちに委ねるべきだ。
「行くぞ、ユウナ」
「う、うん!」
と、難しい表情ながらも、ジークについてくるユウナ。
ジークはそんな彼女の手を引きながら、コロシアムを後にするのだった。
聞こえてくるウルフェルトの悲鳴と、鈍く響く殴打の音を背景に。
『常勝魔王のやりなおし』の3巻の発売が決定しました!
発売日は11/1なので、皆様に読んでいただけると嬉しいです!
なお書籍版ではいつもの通り、エ○シーンを大量追加しております――具体的にいうと一万文字近くは加筆しているかと……。
なんとまた!!
本日は秋田書店様の『どこでもヤングチャンピオン』にて、コミカライズの第二話が掲載されます!!
戦闘シーンはもちろん、エ○シーンも素晴らしいできです!
なので、どうかこちらもあわせてよろしくお願いいたします!!




