第十章 世界に光をもたらす者2
「お待たせ、ジークくん!」
と、聞こえてくるのはユウナの声。
同時、彼女は遥か上空からジークの真横に着地してくる。
そして、そんな彼女の周りに漂うのは無数の金色の武器。
あるものは槍、あるものは剣、あるものは弓、またあるものは戦斧。
そのどれもが金色に輝く《ヒヒイロカネ》で出来ている事がわかる。
(ミアと同じ……か。錬金術と魔法を用いて、《ヒヒイロカネ》を不定形の液体に変換。それを戦況に応じてあらゆる武器の姿に変え、自らの周囲に浮遊させておく)
要するに、ユウナはウルフェルトの武器を奪い取り、自らの武器にしてしまったのだ。
それはジークですら出来ない超絶技巧。
こんな事が出来るということは、やはり間違いない。
「《勇者の試練》を突破して、無事に力を得たようだな」
「うん! それと、ミアさんから色々教えてもらっちゃった!」
と、ジークの言葉に以前と変わらぬニコニコ笑顔で返してくるユウナ。
いったい、彼女が今言った言葉はどういう意味なのか。
ジークはそれを問うために、彼女へと――。
「オレを、無視、するなぁああああああああああああああああああああああああああっ!」
と、ジークの思考を断ち切るように聞こえてくるのはウルフェルトの声。
同時、奴は激しく足を地面に叩き付ける。
しかし、以前のような破壊は起こらない。せいぜい、地面に軽くヒビがはいる程度。
(当然だ。お前が盗んでいた力は、正統な後継者たるユウナにまるまる帰ったんだからな)
などなど、ジークがそんな事を考えていると。
ウルフェルトは血走った眼で、ジーク達を睨み付けながら言ってくる。
「まだだ。まだ間に合う。貴様を殺して、そこの後継者を殺す……そうすれば、オレはまたミアの力を手に入れられる」
「いや、無理だろそれは」
と、ジークはウルフェルトへと返す。
彼はウルフェルトへと視線を向けたまま、さらに言葉を続ける。
「ユウナを殺したところで、ミアの力は《勇者の試練》には帰らない。ユウナが《勇者の試練》へ自らの力を返さない限りな……というか、そもそもお前にユウナは殺せない」
「黙れ」
「まずユウナを守る俺を倒せない」
「黙れ」
「仮に俺が居ないとしても、今のユウナをお前如きが倒せるとでも? 本気でそう思ってるのなら笑えるな――今のユウナは、この俺すら倒せるか危ういのに」
「黙れぇええええええええええええええええええええええええっ!」
と、なんども地面を蹴りつけるウルフェルト。
今までの破壊が伴わないため、まるで子供の癇癪の様にしか見えない。
ジークがそんな事を考えている間にも、ウルフェルトはジークへと言葉を続けてくる。
「オレを舐めるな……オレは強い、誰もよりもなぁ!」
「言ってろ」
「あぁ、言ってやるさ。そして見せてやろう――オレの奥の手を」
言って、ウルフェルトは自らの胸に手を当てる。
そして、奴が何らかの呪文を呟いた……その直後。
暗く淀み始める周囲の空気。
黒紫に変わりゆく、周囲の景色。
ウルフェルトの元へ、街中から魔力が集まって来ているのだ。
その魔力量は一時的にだが、かつてのウルフェルト――ミアの力を振るっていた際のウルフェルトに匹敵している。
(しかし、なんだ? この魔力に交じっている生命力は)
「ジークくん!」
と、浮遊している剣を手に取りながら、ジークへと言ってくるユウナ。
ジークはそんな彼女へと言う。
「待て、お前は戦わなくていい」
「で、でも!」
と、戸惑った様子のユウナ。
ジークはそんな彼女を納得させるために言う。
「わかってる。今のお前は強い――だから、お前にしか出来ない事の準備をしておいてくれ」
「あたしにしか出来ない事……ウルフェルトさんの解呪だね?」
「あぁ。今奴が使おうとしている呪術を俺が防いだ隙に。お前が決めろ」
「うん。やるよ……あたしがウルフェルトさんを倒す!」
と、自信に満ちた様子で頷くユウナ。
ジークがそんな彼女に頷きで返していると。
「待たせたなぁ」
と、ジーク達の方へと手をかざしてくるウルフェルト。
奴は凄まじい魔力を手に集中させながら、ジークへと言葉を続けてくる。
「オレは部下どもにある刻印を刻んでいる」
「ほう、どういう刻印だ?」
と、ジークはウルフェルトへと言葉を返す。
すると、彼はニヤリと笑いながら、ジークへと言ってくる。
「まぁ聞けよ。オレの奥の手はなぁ、生贄と引き換えにたった一度だけ発動する強力な呪術でなぁ」
「生贄……まさか、お前」
間違いない。
ウルフェルトの刻印の効果は――。
(大勢の部下の生命力を、全て魔力に変換して吸収したのか? それならさっき、魔力に生命力が混じっていた説明がつく)
たしかにそうすれば、一時的にミアに匹敵する魔力は出せるに違いない。
けれどそんな事をすれば、部下は全員死んでしまう。
「外道が……」
「黙れよ、魔王……そして死ね! 上位呪術 《エクス・サクリファー》!!」
と、ジークとの会話を断ち切る様に、件の呪術を放ってくるウルフェルト。
多くの人の命を燃やした呪術。
ミアにも匹敵するその一撃は、直撃すればジークすら葬れるに違いない……しかし。
(哀れだな。追い詰められた結果、自分に《ヒヒイロカネ》の武器が無い事を忘れたか)
そうなれば、ウルフェルトのあらゆる攻撃はジークに効かない。
ウルフェルトの選択肢は攻撃ではなく、本来全力で逃げるべきだったのだ。
(こいつは仲間の冒険者達を無駄死にさせた)
勇者を冒涜するウルフェルトへは、もはや怒りを通り越して何も感じない。
などと、ジークがそんな事を考えている間にも、迫ってくる呪術。
黒紫の魔弾。
醜悪な稲光を放ち。
地面を破壊しながら進んで来る破壊の化身。
ジークはそれを前に今まで構えていた剣を鞘へ納める。
そして、それと同時――。
魔弾は消えた。
「ば、バカな!? 何をした!?」
と、驚いた様子のウルフェルト。
ミアの力のない今の奴では、ジークがしたことが早すぎてわからなかったに違いない。
ウルフェルトに懇切丁寧に教えるのは癪だが、こいつの絶望した顔は気分がよくなる。
ジークはそんな事を考えた後、ウルフェルトの背後に聳える城を指さす。
「なんだ!? どういうことだ!?」
と、ジークの指先を見ながら言ってくるウルフェルト。
ジークはそんなウルフェルトへと言う。
「いいから見てみろ」
「っ……」
と、無駄に警戒しているに違いないウルフェルト。
奴は何度もジークの方をチラチラ見てきながらも、ようやく背後へ振り返る。
そこでウルフェルトは気がついたに違いない。
ウルフェルトの背後に聳えたつ城。
そこに刻まれた半円状の破壊の痕二つに。
何が起きたのかは簡単だ。
ジークは迫ってくる魔弾を、神速の抜刀術で両断。
その後、二つに斬り裂いたそれを瞬時に蹴り返したのだ。
結果、その魔弾は威力そのままにウルフェルトの背後――ミアの城へと着弾したわけだ。
この間、合わせて時間にして0.1秒未満。
きっと、ウルフェルトは未だに何が起きたのか理解していないに違いない。
ジークはそんな事を考えたなら、ウルフェルトへと言う。
「以前、お前は俺にこう言ったよな? たしかそう『この程度か、魔王?』とな」
「っ」
と、ゆっくりとジークの方へ向き直って来るウルフェルト。
ジークはそんな奴へと、さらに言葉を続ける。
「たしかに俺の力はこの程度だが……どうやらお前よりは、遥かに上のようだ」
「う――っ」
「なんだって?」
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
言って、情けなくもジークに背を向け走り出すウルフェルト。
逃走したのだ――しかし、今更もう遅い。
なぜならば。
「あたしはあなたを逃がさない」
聞こえてくるユウナの声。
彼女は凄まじい速度で、ウルフェルトの目の前に移動するや否や。
「上位回復魔法 《エクス・アンチスペル》!」
ユウナが使ったのは、解呪の魔法だ。
今のユウナならば、ウルフェルトの呪術を確実に解呪できるに違いない。
などと、ジークが考えている間にも。
「あ、あぁっ!? お、オレの、オレの命が、抜けて――っ」
と、その場に崩れ落ち膝をつくウルフェルト。
きっと、ユウナの解呪が効いたに違いない。
要するに、ウルフェルトからは今まさに『奴が多くの人から奪った命』が、持ち主の元へと戻って行っているのだ。
「じ、ジークくん! これ!?」
と、聞こえてくるのは戸惑った様子のユウナの声。
いったい何事か。
ジークがユウナの視線の先へと眼を向けると、そこに居たのは――。
『常勝魔王のやりなおし』の3巻の発売が決定しました!
発売日は11/1なので、皆様に読んでいただけると嬉しいです!
なお書籍版ではいつもの通り、エ○シーンを大量追加しております――具体的にいうと一万文字近くは加筆しているかと……。
これからも気合いいれて書かせていただきますので。
書籍版3巻、コミカライズ版合わせてよろしくお願いいたします!




