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第十章 世界に光をもたらす者

 時は少し戻って、ユウナが《勇者の試練》に入ろうとしている頃。

 場所はイノセンティア、ウルフェルトが居座っている城――その一階、広間。


「どうしたどうした!? まだまだ行くぞ、魔王!」


 と、《ヒヒイロカネ》の武器を構えながら言ってくるウルフェルト。

 奴は地面を激しく蹴ると、その周囲を爆散させながら、猛烈な速度でジークへ突っ込んで来る。


(速さ、構えともに申し分ない。さすが狐娘族とミアの力を盗んでいるだけあるな)


 ウルフェルトの突進攻撃は、単純に見えてまったく隙を見いだせない。

 だがしかし――。


「そろそろ死んどけよ、魔王!」


 と、今度はジークの目の前から聞こえてくるウルフェルトの声。

 奴は地面に大きく足を踏み込むと、全体重を乗せる様にジークへと斧を振るってくる。


 音を置き去りにし、風を巻き起こすその横凪の斬撃。

 まさにミアの一撃というに相応しい。


 だがしかし。

そう。


「ミアの好敵手である俺を――魔王ジークを舐めるなよ」


 言って、ジークは上半身を刹那の間に後ろへ逸らす。

 すると、鼻先わずか数センチをかすめていくウルフェルトの斬撃。


「まだまだぁあああああああああっ!」


 言って、ウルフェルトはすぐさま体勢を立て直し、続く斬撃を繰り出そうとしている……けれど。


「まだまだなのは、こっちの台詞だウルフェルト!」


 ジークは上半身を逸らしたまま、ウルフェルトの胸めがけ音速を越えた蹴りを入れる。

 無論、殺さない様に加減はしているが。


「うぐ――っ!?」


 と、ジークの蹴りが直撃し、息が出来ないに違いないウルフェルト。

 畳みかけるならば今だ。


「上位闇魔法 《エクス・ルナ・アポカリプス》」


 言って、ジークはウルフェルトへと手を翳す――その直後。

 ジークの手から離れたのは、高密度の魔力が圧縮された極小の球体。


 当たれば全てを崩壊させる破滅の星。

 かつてウルフェルトに弾かれたそれは、今度こそ間違いなくウルフェルトの方へと進み。


 周囲にあるあらゆるものを消し飛ばした。

 例え形が残ったものでも、それは圧倒的な熱量で形が歪み。

 空気や剥き出しなった地面は、人間の存在を許さないほどに赤熱している。


 まさしく地獄。

 ジークはそんな景色の中、一人で体勢を立て直す。


「武器を盾にして直撃は避けたか。まぁ、速度を下げてやったんだから、それくらいはしてもらわないとな」


 言って、ジークは視線を上へと向ける。

 するとそこにあるのは天井をぶち抜く大穴。


一階も、二階も、城の全ての天井をぶちぬき、空が見える程の大穴だ。

 そして、その大穴の先――遥か上空に居るのは。


「そこは景色が良さそうだな、ウルフェルト」


 要するに、ウルフェルトは先の攻撃を防いだ結果。その勢いを殺し切れずに天高く吹っ飛ばされたのだ。

そしてそして、さらにもう一つ言うならば。


「俺の攻撃はまだ終わってない」


 言って、ジークは地面を激しく蹴りつけ、一瞬にして自らも城から飛び出す。

 無論、目指すは上空――ウルフェルトが居るところだ。


「……!」


 風を切り、凄まじい速度で迫ってくる空と、そこに居るウルフェルト。

 見た限り、ウルフェルトはまだ体勢を崩している。


(殺すのはまずいが、行動不能にするのは……ありだ)


 いっそ、このまま地面に叩き付けて、魔法によって四肢を縫いと――。


「よぉ、油断したなぁ?」


 言って、凄まじい速度で体勢を立て直してくるウルフェルト。

 奴はカウンター気味にジークの顔を掴んで来ると――。


「今度は貴様がふっとびやがれ!」


 言って、ウルフェルトは凄まじい力でジークをぶん投げてくる。

 ジークの身体は凄まじい速度で、地上めがけて落下。

 やがて隕石のような速度で、コロシアムの中央へと衝突。


 舞い上がる砂塵。

 砕け散る闘技台。

 隆起する地面。


「っ……」


 相変わらずのバカ力だ。

 いちいちミアを思い出してしまうのが、これまたイライラする。

 とはいえ――。


(障壁があるから、全く効いてはいないが……)


 ジークがそんな事を考えながら、ゆっくりと立ち上がろうとした。

その瞬間。


「もう一度言うぜ、油断したなぁ、魔王!」


 と、すぐ近くから聞こえてくるウルフェルトの声。

 同時――。


 砂埃を消し飛ばし、現れたのは金色の大斧。


 狐娘族の技術で振るわれ、ミアの力で加速したウルフェルトの一撃。

 それは躱しようのないほどに、洗練された必殺の斬撃。


(さて、本当に油断している様に見せるためにも、この攻撃は直撃させてやるか)


 ジークはそんな事を考え、あえて『体勢が崩れ動けない』ふりをしていると。


「!?」


 と、突如ウルフェルトの顔が驚きといった様子に染まる。

 さらにそれと同時、ぐんっと露骨に下がる奴の斬撃の速度。


(これは……間違いない!)


 ジークはすぐさま体勢を立て直し、その場から瞬時に離脱。

 もうウルフェルトの斬撃を喰らってやる理由がなくなったからだ。


 などなど考えている間にも、先ほどまでジークが居た場所に直撃するウルフェルトの斬撃。

 しかし、それは今までの様な凄まじい破壊を起こさない。


「バカな……なんだ、これは!?」


 と、聞こえてくるのはウルフェルトの声。

 本人だってわかっているだろうに、きっと認めるのが嫌に違いない。

 故にジークはウルフェルトへと言ってやる。


「ユウナが《勇者の試練》を突破したんだ。お前はもうミアの力を使うことできない」


「なん、だと? 貴様まさか――」


「俺が一人で城に突っ込んで来ると思ったか? そんな非効率的な事をこの俺がするとでも?」


「貴様は囮……あの女に《勇者の試練》を受けさせる時間稼ぎかっ」


「そういう事だ。もっとも、今更気がついても遅いがな」


「……っ」


 と、身体を怒りに震わせている様子のウルフェルト。

 奴は斧を地面に叩き付けながら、ジークへと言ってくる。


「オレは負けない! オレはまだ負けていない! ミアの力を失っても、オレには奴隷共から奪った戦闘技術がある! クズ共から奪った無限の命がある! そうだ! 戦いは力だけで行うものじゃ――」


「誰も『お前の負け』なんて言ってないだろ? もっとも、自覚があるならもう降参したほうがいいと思うがな」


「……まれ」


「断言してやろう。お前にもう勝ち目はない」


「黙れぇえええええええええええええええええええええええええええええええっ!」


 言って、図星を突かれた様子のウルフェルト。

 奴は先ほどと比べ、明らかに遅い速度で突っ込んで来る。

 けれどウルフェルトが言う通り、奴の構えには全く隙が無い。


(ミアの力に注目しがちだったが、狐娘族たちも本当にすごい奴等だな)


 などと、考えている間にも目の前に迫ってくるウルフェルト。

 奴は洗練された動作で、ジークへと斧を振り下ろしてくる。


 しかし、その攻撃はやはり遅いのだ。

 ジークは剣をかまえ、その攻撃を余裕をもって防ごうとした。

まさにその瞬間。


 ウルフェルトが使っている武器。

 金色に輝き、破壊不可能の《ヒヒイロカネ》製の大斧。

 それがまるで液体の様に、その姿形を溶かし落とす。


「!?」


 と、驚愕した様子でジークから距離を取って来るウルフェルト。

 けれど正直、驚愕したのはジークも同じだ。


(何が起きた? 急にウルフェルトの武器が液体の様になったのはわかる……だが、いったいどうして)


 いや、心当たりはある。

《ヒヒイロカネ》の本来の使い方だ。


 五百年前、ジークは《ヒヒイロカネ》をこのように使う者を見たことがある。

 選ばれし者。世界を包む闇を払った英雄。

 その名は――。


「お待たせ、ジークくん!」


 新たな真の勇者。

 ユウナの声が聞こえてくるのだった。


『常勝魔王のやりなおし』の3巻の発売が決定しました!


発売日は11/1なので、皆様に読んでいただけると嬉しいです!

なお書籍版ではいつもの通り、エ○シーンを大量追加しております――具体的にいうと一万文字近くは加筆しているかと……。


これからも気合いいれて書かせていただきますので。

書籍版3巻、コミカライズ版合わせてよろしくお願いいたします!

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