表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

183/207

第九章 勇者の試練2

 そうしてしばらく経った頃。

 現在、ユウナ達は地下へ続く大階段を下りていた。


「本当にこっちで合ってるんですか? やっぱり私に任せた方が、絶対に安心ですって!」


「ん……アイリス、根拠のない自信はやめて」


「アイリスは頼れる時と、そうでない時の差が激しいですからね」


 と、ユウナの背後から順に聞こえてくるのはアイリス、ブラン、そしてアハトの声だ。

 ユウナはそんな彼女達へと言う。


「どんどん気配というか――あたしを呼ぶ声が強くなっている気がするから、多分もうすぐだと思う!」


「っていうかユウナ。さっきから地図みてないのって、地味に凄くないですか!? でもでもアレですよ――もし間違ってたら、お詫びに一エッチですよ♪」


「多分、《勇者の試練》とユウナの《光の紋章》が共鳴してる。厳密に言うなら……ん、《勇者の試練》の中にある『ミアの力』と共鳴してる」


「なるほど。ニュアンスで言うなら、『ミアが後継者を呼んでいる』といった感じですか」


 と、ユウナの言葉に順に返してくるアイリス、ブラン、そしてアハト。

 ユウナはそんな彼女達へと言う。


「そうだと、ミアさんがあたしを認めてくれているみたいで、とっても嬉しいんだけど……あ、階段が終るみたい!」


 言って、ユウナは階段を駆け下りていく。

 そして、そんな彼女の目の前にあったのは――。


「あは♪ 壁ですよ! 壁! どうやらユウナは間違っていたみたいですね! これはお仕置きが必要ですよ!」


 と、聞こえてくるアイリスの声。

 彼女の言う通り、目の前にあるのはただの大きな壁――扉などは何もついていない。

 しかし、おかしい。


(どういう事? あたしを呼ぶ声は、さっきよりも格段に強くなってるのに)


 しかもその声は、確実にこの壁の向こう側から聞こえてくるのだ。

 ユウナは念のため、壁に何度も触れてみる。だが、当然の如く壁は壁のまま。


 ひょっとしたら、本当にユウナの勘違いだったのかもしれない。

 見当違いの方向に来て、時間を無駄にしただけの可能性が――。


「ユウナ、下がってください」


 と、ユウナの思考を断ち切るように聞こえてくるのはアハトの声。

 彼女はユウナが下がるや否や、剣へと手を伸ばし――。


 キンッ。


 冒険者を相手にした時と同様、響く鉄の澄んだ音。

 アハトが剣を鞘へと納めた音だ。


「階段を下りた先、在ったのはこの壁のみ。他に通路も何もなかったので、違和感しかありませんでした――そもそもそれでは、階段の存在異議が疑われますから」


 と、振り返ってユウナの方へと歩いて来るアハト。

 彼女はユウナの傍で立ち止まると、そのまま彼女へと言葉を続けてくる。


「しかも、見た限りユウナは『この先に何かがある』と確信を持って進んでいました――となれば、先の事と合わせてこの壁が怪しいのは明白……よって」


 そこまで言うと、再び壁の方へと向きなおるアハト。

 彼女はニッコリ笑顔で、ユウナへと言葉を続けてくる。


「斬らせてもらいました」


 直後――。

 壁に入るは無数の線。

それは見る間に百、二百、千、二千と増えて行く。


 間違いない。アハトの斬撃の痕だ。

 先ほど彼女が剣に手を伸ばした時、一瞬で斬撃を何度も繰り出したに違いない。


(すごい。冒険者さんを相手にしたときより全然すごい……だって、今回は全く見えなかった。これがアハトさんの本気――ジークくんを倒したミアさんの剣技)


 などなど。

ユウナがそんな事を考えていたまさにその時。


 無数の斬撃線に従って、崩れ落ちていく壁。


 斬撃が多すぎたに違いない。

 それらは瓦礫とならず、地面に叩き付けられた衝撃で砂塵となっている。


「さぁユウナ。道は開けました、歩みを進めてください――終点は間もなくなのでしょう?」


 と、優し気な表情を見せてくるアハト。

 ユウナはそんな彼女に頷いた後、壁があった向こう側へと眼を向ける。

 そこに在ったのは通路――奥から感じる、これまで以上の気配。


(この奥だ。間違いなく《勇者の試練》がある)


 考えた後。

ユウナは仲間達と共に通路の奥へと進んでいく。


 …………。

 ………………。

 ……………………。


 けれど。

そこで待っていたのは想像を絶する光景だった。


「なに、これ?」


 ユウナは思わず、口からそんな言葉が飛び出してしまう。

 さて、そんな彼女の目の前にあったのは――。


 コロシアム程はある大きな空間。

 最奥に座す巨大な門。

 そして。


「大量の棺桶……いったい、ここは、ここで何をしているの?」


 周囲を満たす死臭、加えて凄まじく歪んだ邪悪な気配。

 とても神聖な場所とは思えない。

 むしろ、ユウナの本能が全力で、ここからの逃亡を騒ぎ立てている。


「ん……この棺桶の下を見て」


 と、聞こえてくるブランの声。

 ユウナは恐怖を全力で抑え、棺桶へと近付く。


 そして、彼女はブランの言う通りに、棺桶の下を見てみる。

するとそこにあったのは。


「これは、呪術陣? これも、こっちのも……全部の棺桶の下にある?」


「ブランは呪術に詳しくないけど、魔力の流れからわかる」


 と、ユウナの言葉に返してくるくるブラン。

 彼女はそのまま、ユウナへと言葉を続けてくる。


「この呪術陣――上に乗っている対象の力を吸い取るもの……ん、使用者はウルフェルト」


「え、どういうこと? ウルフェルトさんは棺桶の中の死体から、力を吸っているって事? そんな事が出来るの? というより、意味があるの?」


「普通は意味ない……死体は死体。どんなに強い人でも、死体になった時点で何の力も持たない」


「じゃあ――」


「ユウナならわかる……よく、魔力の流れを追ってみて」


 言って、視線を最奥の門へと向けるブラン。

 つられてユウナもそちらへと視線を向けた直後――。


 感じたのは凄まじい魔力、凄まじい力の奔流。

 圧倒的な程の聖浄たる気配。


 一目でわかる――あれこそが《勇者の試練》だ。

 扉で封印されている様だが、それでもなおミアの気配が溢れだしている。


(でも、あれ? なんだか……様子がおかしいような)


 ミア程の者が『魔力を自然に溢れださせる』様な、不完全な封印をするはずがない。

 それに先ほど、ブランは魔力の流れを追ってみてと言っていた。


「魔力の、流れを……」


 呟いたのち、ユウナは目をこらす。

 すると見えて来たのは、《勇者の試練》から伸びる何本もの線。

 それらはさらに無数に枝分かれし、呪術陣の上に置かれた棺桶へと繋がっている。


(それにこの棺桶。呪術陣のせいで、すごく邪悪な気配に変質しちゃってるけど、よく探ってみるとすごく懐かしい気配を感じる)


 まるでそう。

 ユウナに『勇者』を託した、先代の勇者の様な。


「っ……まさか」


 そこでユウナはとある事に気がついてしまう。

 考えるのもおぞましい、人間として絶対にしてはいけない様な事。

 それがここで行われている可能性に思い至ってしまう。


「多分ですけど、ユウナが今考えてる事で間違いないですよ」


 と、聞こえてくるアイリスの声。

 彼女は棺桶の蓋を開け、中を覗き込みながらユウナへと言ってくる。


「死体本体にも、特殊な呪術陣が彫られてます。見た事ない術なんで、効果はしりませんけど……まぁ、対になってるものがそこの扉――《勇者の試練》の入り口に、後付けで掘られている事から見て、確定じゃないですかね?」


「…………」


 ユウナはもはや、何もいう事が出来ない。

 けれど、アイリスはユウナへとさらに言葉を続けてくる。


「人間とかいくら死んでも、酷い目に遭おうとどうでもいいですけど……さすがにこれは不快というか、気持ち悪いですねウルフェルト」


「…………」


 ブランに加え、アイリスがここまで言うなら間違いない。

 ウルフェルトがここでやっている事は簡単だ。


《勇者の試練》からミアの力を盗み取っているのだ。

 それも『歴代勇者の死体』を冒涜する手段を用いて。


 まず、ウルフェルトは《勇者の試練》と棺桶の中にある『歴代勇者達の死体』に呪術陣を刻んでいる。


(アイリスさんもわからない未知の呪術陣みたいだけど、効果は多分――)


《勇者の試練》から、ミアの力を『歴代勇者の死体』に流し込むこと。

 死体とはいえ、ミアの力を後継する資格を持った『勇者達』だ。


 ユウナが《勇者の試練》と共鳴したように、何等かのパスは繋がっているに違いない。

 そこにジークさえ称賛したウルフェルトの呪術を持ってすれば――先に言った流し込みは比較的簡単に出来てしまうに違いない。


(それで、棺桶の下にある呪術陣。あれがブランさんの言った通りの効果なら――)


 それを用いて、ウルフェルトは吸い取っているのだ。

『歴代勇者の死体』という貯水タンクに溜めたミアの力を。


 打ち倒さなくてはならない邪悪。

 ユウナは生まれて初めて、そんな言葉が脳裏に浮かんだ。


(狐娘族さん達に酷い事して……人の命を吸い取るだけじゃなく、死体を弄んで、ミアさんの力を奪い取って)


 ウルフェルトは止めなければならない。

 今すぐにでも――そのためには。


「みんな、ここまで送ってくれてありがとう」


「え、いきなりどうしたんですか!?」


「ん……ユウナの事、応援してる」


「覚悟が決まったようですね」


 と、ユウナの言葉に返してくるのはアイリス、ブラン、そしてアハトだ。

 ユウナはそんな彼女達の顔を順番に見た後、一度だけ頷く。


 そして、彼女はゆっくりと《勇者の試練》へと歩いていく。

 目の前にあるのは、重く閉ざされた扉。


(でも、不思議とどうすればいいのかわかる)


 ユウナは右手を扉へと、優しく触れさせる。

すると次の瞬間。


「っ!?」


 ユウナの右手の甲にある《光の紋章》から迸る、凄まじい光の奔流。

 同時、ユウナの視界は暗転するのだった。


『常勝魔王のやりなおし』の3巻の発売が決定しました!


発売日は11/1なので、皆様に読んでいただけると嬉しいです!

なお書籍版ではいつもの通り、エ○シーンを大量追加しております――具体的にいうと一万文字近くは加筆しているかと……。


これからも気合いいれて書かせていただきますので。

書籍版3巻、コミカライズ版合わせてよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ