第八章 魔王の力2
「勝った気になっている様だな魔王!」
と、ジークの思考を裂く様に聞こえてくる声。
見ればいつの間にやら、ジークから離れた位置に八人の男が立っていた。
黒いフード付きのローブで顔を隠し、自信ありげに笑う口元だけを見せる男達。
ジークはそんな奴らへと言う。
「なんだおまえ達は? さっきの冒険者達より強いのか?」
「バカめが! 当たり前の事を言うんじゃあない!」
そんな男の声と同時、巻き起こる笑い。
とりあえず、こいつらが不快な連中というのはわかった。
などなど、ジークがそんな事を考えていると。
「我が名はジョーズ! ウルフェルト様直属――最強の呪術集団『八呪星』が第一位!」
「私の名はメグ! 八呪星第二位――貴様と同じ種族を、かつて呪い殺した事がある!」
「僕の名はディープ。八呪星の三位だ……あの剣聖に呪いをかけ、力を奪った者だ」
「俺はネードだ! 八呪星四位、千人呪殺を経て最強の呪いを手に入れた者だ!」
「メガロ、八呪星五位。最強竜『ウロボロス』を呪殺したのはこのメガロだ」
「わたしはシャーク、八呪星の六位。あらゆる者を触れるだけで殺す呪いを使う者」
「拙者がロスト。八呪星七位――一子相伝たる伝説の呪術を操る物でござる」
「自分がマーケット、八呪星の第八位! こう見えて呪術界のエリートなんで、よろ!」
どうでもいい名乗りを上げてくる八呪星達。
最初の男――ジョーズはジークへと言ってくる。
「貴様は終わりだ魔王。我等八呪星はかつて、魔王に匹敵すると恐れられた魔物――『西の山の古狼』をも葬っているのだ」
「ほう……たしか魔狼族の長だったな」
と、ジークはジョーズへと返す。
そんなジークはジョーズへとさらに言葉を続ける。
「驚いた、まだ生きていたのか」
「くくっ、知っている様だな! 奴との戦いは三日三晩に及んだ! それでも最後は、我らが呪術の前に死んだよ!」
「それはすごい――古狼の奴も、歳による戦闘力の低下には勝てなかったわけだ」
「ははっ、我等に強がりを言えるのも今のうちだ!」
「事実を言ったまでだ。全盛期の奴と戦えば、おまえ達は瞬く間にひき肉になっていただろうな――あぁ、ところでその『我等』とやらが俺の相手もしてくるのか?」
「その通り。八呪星の力をもって、貴様も古狼と同じ場所に送ってやろう!」
「で、その『我等』はどこに行った?」
「貴様はいったい何を言っている。そんなのここに――」
と、固まるジョーズ。彼はみるみる青い顔になっていく。
しかし、彼がそうなるのも当然だ――なんせ。
「気がつくのが遅い。お前の仲間は名乗りを上げた直後、俺が瞬時に全員倒した――もちろん一撃でな。そこを見て見ろ、壁におかしなポーズでめり込んでいるぞ」
「ふ……ふふっ、嘘だぁああああああああああああああっ!」
と、ジークを指さし叫んでくるジョーズ。
ジークはそんな奴へと言う。
「黙って後ろを見て見ろ。七人全員が――」
「貴様、嘘をついているな! 八呪星の一員たるものが、こうも簡単にやられるわけがない! ルコッテの街の勇者を知っているか!? 我等は親善試合にてあの最強魔法使い――エミール様にも認められたんだぞ!」
「じゃあ、お前の仲間はどこへ消えた?」
「う、うるさい! 何をした!? 貴様はいったい我等に何をしたんだ!?」
と、パニックに陥っているに違いないジョーズ。
しかし、聞かれたのならば答えてやるのが魔王の流儀だ。
「わかった。何をしたのか見せてやろう――見やすい様に、特別にゆっくりやってやる」
「ひ、ぅ……ま、待て!」
と、ジークへ言ってくるジョーズ。
奴は尻もちを突き、服を汚物で濡らしながらジークへと言葉を続けてくる。
「こ、降参する。だからお願い、します……い、命だけは! 妹が……妹が居るんだ! だから、こんなところで死ぬわけには――」
「そうやって命乞いした奴を、お前は生きて帰したのか?」
「わ、わかってる! 信じてもらえないかもしれないけど、これからは心を入れかえる。殺した人の分も償う、精一杯やる――だ、だから!」
「ちっ……とっとと失せろ」
ユウナじゃないが、この冒険者――ジョーズはまだ更生の余地がある。
なんせ、ジークに訴えかけてきた冒険者の言葉、その瞳からは嘘が感じられなかった。
「た、助けてくれるのか!?」
と、聞こえてくるジョーズの声。
奴は涙を流しながら、ジークへと言葉を続けてくる。
「あ、ありがとう! いつか恩を返す。今日の事を絶対に忘れ――」
不自然に止まるジョーズの言葉。
その直後。
ジョーズの身体の内側から溢れだしたのは、黒紫の炎。
それは瞬く間にジョーズの身体全てを包んでいき。
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああっ!? あ、あぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
響き渡るジョーズの絶叫。
ジークがジョーズを助けようとする間もなく、彼は灰すら残さず消えてしまう。
当然だが、ジョーズを殺したのはジークではない。
(今のは呪術。ジョーズの体内に仕込まれていたのか? 俺ですらも気がつかず、ここまで迅速に対象を殺しつくすとは)
ジークが知る限り、そんな事ができるのは一人しかいない。
などと、ジークがそんな事を考えていると。
「オレは裏切者を許さねぇ主義でなぁ」
聞こえてくるのは野太く。
そして、耳障りなウルフェルトの声だった。
『常勝魔王のやりなおし』の3巻の発売が決定しました!
発売日は11/1なので、皆様に読んでいただけると嬉しいです!
なお書籍版ではいつもの通り、エ○シーンを大量追加しております――具体的にいうと一万文字近くは加筆しているかと……。
これからも気合いいれて書かせていただきますので。
書籍版3巻、コミカライズ版合わせてよろしくお願いいたします!




