第八章 魔王の力
時はユウナ達と別れた後。
場所はウルフェルトが陣取っている城――その城門前。
「何度も見てもすごい城だな」
この城はミアの為に作られたものであり、ウルフェルトにはまるで相応しくない。
街と同じく、和風建築で作られた巨大な城。
膨大な敷地をフル活用しているだけでなく、空まで届く程の高さを誇っている。
(まったく。ウルフェルトがここの玉座に腰掛けていると思うだけで、本当に不快な気分になるな)
とはいえ、ジークがそんな事を考えるのも――そして、ウルフェルトがミアを冒涜していられるのも、あと少しの運命だ。
(ユウナ達には『ミハエルから奪った資料』を渡してある。あれにはご丁寧に『城の見取り図』と《勇者の試練》の配置も書かれていたから、まず迷う事はないだろ)
それになにより、ユウナには《光の紋章》がある。
《光の紋章》と《勇者の試練》はきっと引き合うに違いない。
となれば、そもそも地図などいらない可能性が高い。
などなど、ジークはそんな事を考えた後、大きくため息を吐く。
「要するに、後は俺の開始待ちってわけだ」
派手に立ちまわり、ユウナ達が潜入しやすい様に陽動する。
となれな、大量の冒険者を相手する事になるに違いない。
(雑魚を相手するのは、本当に作業感がすごいから面倒くさいが……)
ユウナ達のためだ、文句など言っていられない。
ジークは「よし」と一言、気分を一新。
彼は目の前の城門へと手を伸ばし、それを軽くノック――その直後。
風船が割れたかのような、けれどもそれより数倍大きな音。
パラパラと降ってくる、無数の木だった物の破片。
(まずいな、もっと派手にやった方が陽動になったか……反省して次に生かそう)
そんなジークの目の前にあった城門は、綺麗に消滅していた。
理由は簡単。
先ほどのジークの凄まじいノックの衝撃に、門が耐えきれなかったからだ。
と、ジークがそんな事を考えていると――。
「ひっ」
と、ジークの前の方から聞こえてくる声。
見れば、冒険者がジークの方見て、完全に固まってしまっている。
ジークが扉を壊した際、偶然近くに居たに違ないない――まったく気がつかなかった。
(ちょうどいい、さっきの失敗をこいつで取り戻すか)
入場を派手に出来なかったのなら、その後を派手にすればいい。
例えば……と、ジークはなるべく邪悪な笑顔を浮かべて冒険者へと近づいていく。
そして、ジークは冒険者の顔の横に手を翳しながら言う。
「恐怖しろ、魔王が攻めて来たぞ」
直後、ジークの手から放たれたのは高密度に圧縮され、光線のようになった魔力。
それは冒険者の頬をかすめ、一瞬でその冒険者の背後へと飛んでいき。
巻き起こったのは、フロアを破壊しつくす程の凄まじい爆発。
気がつくと、ジークの前に居た冒険者は消えていた。
それだけではない――周辺から太く巨大な柱を残し、あらゆる壁や床板などが消え去っていたのだ。
(さっきの冒険者に『敵襲だ!』と叫んでもらう予定だったんだが、少し強めに魔力を放ち過ぎたか……やれやれ、加減が本当に難しいな)
現代の人間は脆すぎる。五百前の人間なら、今の攻撃程度余裕で耐えた。
けれど、結果オーライという言葉もある。
「な、なんだ今の爆発は!?」
「おいあれを見ろ! あの爆心地に立っている男!」
「魔王だ――ウルフェルト様が言っていた魔王だ!」
「お前ら、集まれ! 敵襲……敵襲だぁあああああああああああああっ!」
と、聞こえてくる冒険者達の声。
奴等はまるで小虫の様に、至る所からその姿を見せてくる。
ざっと見た限り、その数は五百を軽く超えどんどん増えていっている。
きっと、あと少しすれば千を越えるに違いない。
(一撃で消し飛ばす事は可能だし、棒立ちしていても奴等の攻撃は、《障壁》のある俺には届かないが……そんな事はしない。俺の役目は陽動、なるべく派手に長くいかせてもらうぞ)
考えた後、ジークは床を激しく蹴りつける。
そして、彼は凄まじい速度で一瞬にして冒険者の群れへと突っ込んでいき。
「五百年前の人間の様に生き延びて見せろ、俺という災厄から」
言って、すぐ傍に居た冒険者の顔を掴み、そのまま彼方へと目にも止まらぬ速度で投げ飛ばす。
直後、巻き起こったのはその冒険者が壁を突き破る轟音。
きっと、本当に彼方へと飛んでいったに違いない。
と、ジークがそんな事を考えていると。
「その首、もらったぁ! くらえ魔人を屠った我が奥義――無双黒炎瞬殺斬!!」
ジークの真横から聞こえてくる声。
見れば、冒険者の一人がジークの首目がけ、剣を振るってきている。
見るからに渾身の一撃。
だが遅い――止まって見える。
ジークは近づいて来る剣の腹を、下から叩き瞬時に武器破壊。
「武器が破壊されたなら、呆然とする前に回避行動を取れ」
言って、ジークは身体を捻り、その冒険者の腹へと音速の後ろ回し蹴りを放つ。
それと同時――。
パンッ!
と、音を立てて消滅する冒険者。
どうなったかなど説明するまでもない。
「さぁ、どんどん来い。この俺を止めて見せろ」
ジークがそう言った直後、ジークに押し寄せてくるのは冒険者達の波。
懐かしい。数だけで言うならば、まるで五百年前の戦場のようだ。
などと、ジークはそんな事を考えながら、冒険者の波の中を舞う。
背後から突きだされた槍を余裕で躱し、繰り出し手へ拳による突きで反撃。
飛んできた矢を掴み、それを射手の額へと何倍もの速度で投げ返す。
無数の乱打を放ってきた奴には、無数の乱打で返し真正面から粉砕。
放たれた魔法には魔力で介入し、その軌道を逸らして全て放ち手に返して周囲ごと爆砕。
時にはジークから近づき、冒険者を投げ、吹き飛ばし、破裂させ。
粉砕粉砕粉砕――真正面からあらゆる敵を、堂々と撃ち破っていく。
…………。
………………。
……………………。
そうして、戦い続けて体感にして数分。
いくら雑魚相手とはいえ、ジークのテンションも中々に上がって来た――故に。
「どうした、こんなものか冒険者!? もっと俺に抗って見せろ!」
言って、ジークは傍に居た冒険者へ瞬時に接敵。
そのままジークは冒険者が反応する前に、その冒険者の足を掴んで武器とする。
そして、彼はフレイルの要領で、その冒険者を振り回す。
回せば回すほどに巻き起こるのは破壊の暴風。
ジークは台風の目の様に、周囲の全てを破砕していき。
メキョ、ドゴンッ。
と、突如聞こえてくる異音。
見れば、ジークのフレイルの持ち手から先がなくなっていた。
(中々に馴染む武器だったんだが、少し乱暴に扱い過ぎたか)
となれば、次の武器を探す必要がある。
ジークがそうして、品定めをするが如く周囲を見回すと。
「バカな……っ」
ジークの周囲から冒険者達は居なくなってしまっていた。
要するに、気がつかない間に全員倒してしまったのだ。
(まずい……何分で全員倒した?)
ジークの体感ではまだ五分そこいらだ。これでは全く陽動にならない。
フレイルを回し続けて攻撃するのは、さすがにやりすぎたに違いない。
少なくとも、あれをする前はまだ冒険者はかなり残っていた。
(早く次を探さないとまずいな。もっと陽動して――ん、この気配は?)
感じる、遠くからジークの方へと近づいて来る気配。
間違いない。この気配は――。
「勝った気になっている様だな魔王!」
と、ジークの思考を裂く様に聞こえてくる声。
見ればいつの間にやら、ジークから離れた位置に八人の男が立っていた。
『常勝魔王のやりなおし』の3巻の発売が決定しました!
発売日は11/1なので、皆様に読んでいただけると嬉しいです!
なお書籍版ではいつもの通り、エ○シーンを大量追加しております――具体的にいうと一万文字近くは加筆しているかと……。
これからも気合いいれて書かせていただきますので。
書籍版3巻、コミカライズ版合わせてよろしくお願いいたします!




