第七章 ユウナ覚醒へ向けて
時は早朝――まだ空が少し暗い頃。
場所はイノセンティアの宿屋に併設された酒場。
ジーク達は現在、以前と同じ並びでテーブルを囲んでいる。
「え、マジですか?」
と、ショックを受けた様子で言ってくるのはアイリスだ。
彼女がそうなるのも、仕方のない事に違いない。
なぜならばジークは先ほど、これまでにわかっていた事に追加し、昨晩わかった事を改めてみんなに共有したからだ。
なお、そのわかった事とは――。
ウルフェルトは『蠱毒の術』を用いて、狐娘族の戦闘技術を奪っている。
ウルフェルトは『大規模呪術陣』を用いて、人々の命を奪っている。さらにそれと同時、人々の理性を低下させている。
ウルフェルトはなんらかの手段を用いて、ミアの力を奪っている。
前者二つにかんしては、呪いを解けば『奪われた物』は持ち主の元へ戻る事を確認済みだ……それにしても。
ウルフェルトは最悪の盗賊だ。
しかも命すら盗むとなれば、さすがのアイリスも驚くのは当然と――。
「昨日の夜、ユウナと二人で出かけたって……そんなのあんまりですよ! うえぇええ~~~~んっ! 私も魔王様にお姫様抱っこされたいですよぉおお~~~~~~~~~っ!」
バンバンッとテーブルを叩きながら言ってくるアイリス。
どうやら、ジークはまだまだアイリスに対する理解度が、足りていなかったに違いない。
などなど、ジークがため息交じりにそんな事を考えていると。
「しかし、そうなると倒す手段はあるのですか? おまえでも、この街にかけられているウルフェルトの呪いは解けなかったのでしょう?」
と、落ち着いた様子で言ってくるのはアハトだ。
彼女は魔力抵抗のなさから、すでに十年分以上の寿命が奪われている可能性が高い。
にもかかわらず、この冷静さは驚愕に値する。
そんなアハトは、さらにジークへと言葉を続けてくる。
「『数多の狐娘族が培った戦闘技術』を持ち、それを『ミアの力』で振るい、『数多の人間の命』を蓄え不死を得ている……無敵ではないですか?」
「いや、倒すだけなら簡単な手段がある」
と、ジークはアハトへと返す。
彼はそのまま、その手段を彼女へと伝える。
「ただ単に俺が本気を出せばいい」
「それならば――」
「ただその本気というのは、ウルフェルトが蓄えた命が潰えるまで殺しまくることだ。今となっては、この手は悪手としか思えない」
「いったいなぜですか?」
ひょこりと、首をかしげてくるアハト。
ジークはそんな彼女へと言う。
「ウルフェルトは何回殺せば死ぬのかはわからないが、その間俺がずっと本気で攻撃してみろ――アイリスにも以前言ったが、間違いなくこの周辺は消滅する」
「うっ……たしかに、そうなっては元も子もありませんね」
「それに問題はもう一つ、あいつの不死性の仕組みだ」
「不死性の仕組み……っ、まさか!」
と、気がついたに違いないアハト。
彼女は苦い表情で、ジークへと言葉を続けてくる。
「ウルフェルトを殺せば殺すほど、奴が蓄えている命が減る――という事はつまり」
「そう。仮にその手段でウルフェルトを倒し、呪いを解いたとしても、持ち主の元に戻るのは『狐娘族から奪った戦闘技術』のみになる」
「『奪った命』はすでに消費されてしまっているから、ということですね?」
と、言ってくるアハトにジークは頷く。
すると、アハトはすっかり意気消沈してしまっている。
しかし、ジークは何もウルフェルトに勝てないアピールをするために、みんなを集めたわけではない――ジークはそんなに暇ではないし、悲観的でもない。
「ん……まおう様、何か考えがある顔してる」
と、いつもの無表情で言ってくるのはブランだ。
さすがはブラン。付き合いが長いだけあり、ジークの事をよくわかっている。
そして、その考え――手段とは至極シンプルなものだ。
簡単すぎて、ここに居る誰もが忘れてしまっている。
故にジークは言うのだった。
「ウルフェルトを倒す前に、奴の呪いを解けばいい」
『常勝魔王のやりなおし』の3巻の発売が決定しました!
発売日は11/1なので、皆様に読んでいただけると嬉しいです!
なお書籍版ではいつもの通り、エ○シーンを大量追加しております――具体的にいうと一万文字近くは加筆しているかと……。
これからも気合いいれて書かせていただきますので。
書籍版3巻、コミカライズ版合わせてよろしくお願いいたします!




