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第五章 これも魔王の務め

 時は進んで夜。

 場所は変わらずイノセンティア――現在、ジークはユウナともにその一室に居る。

 なお、他の仲間達は併設されている酒場で、待機してもらっている。


「酷い怪我……しかもこれ、さっきの怪我だけじゃないよね?」


 と、言ってくるのはベッドの傍に座っているユウナだ。

 ユウナは現在、件のベッドで眠っている狐娘族の治療中だ。


 なおその狐娘族とは当然、コロシアムで助けた奴隷の少女――八重の事だ。

 ジークはジークで、そんな八重に回復魔法をかけながら、先のユウナの質問に答える。


「あぁ、何度も何度もギリギリの戦いをした結果だろうな――たった一度の戦いで、こんなになるわけがない」


「この子、骨も筋肉もボロボロ。コロシアムで竜族さんを倒せたのが不思議な……というより、ちゃんと立って歩いているのが不思議なくらい」


「たしかにな……」


 筋肉の断裂、折れては歪につながった骨。

 きっと、何もしていなくても激痛を伴うレベルだったに違いない。

 無論、八重の身体は今では大分マシになっている――あとは自然治癒でも行けるほどに。


(逆に言うなら、俺とユウナが二人がかりで治しても、このレベルにしか持っていけない怪我だった訳なんだがな)


 もっとも、ジークとユウナが全力で回復魔法を施せば、八重は瞬時に完治する。

 しかし、それをすると八重はほぼ確実に死ぬに違いない。


 八重の身体は長年、この状態だった形跡があるためだ。

 要するに、八重は異常が通常な状態になってしまっている。


(そんな中、瞬時に完治させたら負担が大きすぎるだろうからな)


 だからこそ、ジークとユウナでもここまでしか治せなかった。 

 ここまで治すのでも、細心の注意を払ったのだから。


「なんにせよ、俺達に出来るのはここまでだ」


「ここなら安全、だよね?」


 と、八重の額をなでなでしているユウナ。

 ジークはそんな彼女へと言う。


「その点は安心しろ――部屋全体はもちろん、扉と窓に俺の魔力で結界のような物を貼ってある。イノセンティアが吹き飛んだとしても、この部屋だけは無傷だろうな」


「よかった……八重さんには、これ以上辛い思いをして欲しくないから」


「優しさから言っているわけじゃないが、その点は俺も同意するよ」


 何度も言う通り、八重は狐娘族――ミアの仲間である聖獣の一族だ。

 そんな偉大な存在が、こんな状態に陥っていいはずがないのだから。


「まぁ、あとはゆっくり寝かせてやろう。ここで俺達が話していても、邪魔なだけだろうからな――それに、下でアイリス達を待たせているしな」


 言って、ジークは八重から離れ、扉の方へと進んでいく。

 そして、彼は心配そうなユウナを促し、共に部屋から出て行くのだった。


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