第四章 不死身の男3
「魔王に驚いてもらえるとは、本当に光栄だぜ……オレの強さが改めて立証されたわけだ」
相変わらず不敵に笑うウルフェルト。
しかも、奴は傷一つ負っている様子がない。
(いくらなんでも、それはありえない……どういうことだ?)
ジークは確かに、ウルフェルトを殺した感覚があったのだ。
ジークの攻撃に対し、ウルフェルトは最初の一撃は生き延びたようだった。
しかし、そこから続く連撃――少なくとも五十撃目でウルフェルトは確実に死んでいた。
そこから先はオーバーキルだ。
そして、最終的にウルフェルトの首から下はなくなった。
(なのに、無傷だと?)
これだけの攻撃をくらえば、勇者ミアだって確実に死んでいる。
なにかカラクリがあるに違いない。
などと考えながら、ジークがなんとなしに下を見ると、そこにあったのは。
コロシアム中央付近を覆い尽くすように、びっしり描かれた奇怪な文字。
間違いない、呪術陣だ。
きっと、先の攻防で闘技台の破片が消し飛んだ事で、ハッキリ目視できるようになったに違ない……要するに。
(この呪術陣は最初からここにあった? それこそありえない――この至近距離で俺が気がつかないなど)
実際、ルコッテの街のクズ勇者であるエミール。奴が街に仕掛けた呪術陣と同様のもの――魔法陣には、街に入った瞬間に気がついていたのだ。
しかも、この呪術陣はジークの知識にない未知のものだ。
故にジークはすぐさま、その呪術陣の内容を解析――。
「無駄だぜ。そいつは俺が生き延びた理由と関係ねぇ」
と、ジークの思考を断ち切るように聞こえてくるウルフェルトの声。
言われるまでもない――ジークもついさっき、呪術陣の内容を解析し終えたところだ。
故に、ジークはウルフェルトを睨み付けながら言う。
「このコロシアムで蠱毒染みた事を行っているな?」
「さすが魔王。見ただけでわかるのか、感心するぜ」
「正気じゃない」
ウルフェルトが行っていることは簡単だ。
まずコロシアムで狐娘族の奴隷と魔物を戦わせる。
それにより奴隷に何度も死線をくぐり抜けさせ、戦闘能力の劇的向上を促す。
成長が限界に達したところで、呪術陣を発動させるといった流れだ。
そして、その呪術陣の効果とは――。
「『狐娘族が培った戦闘能力の抽出』……狂ってるのか? 抽出された後の狐娘族がどうなるのか――いや、狐娘族から戦闘能力を奪うことがどういう事か、お前はわかっていないのか?」
狐娘族は凄まじい戦闘能力が特徴的な種族。
要するに、ウルフェルトがしている事は個性を奪っているに等しい。
それも、自分が強くなるという利己的なもののために。
「あぁ? 抜け殻になった狐娘族がどうなるかなんてわかってるぜ? 奴等の未来はオレが決めてやってるんだからなぁ」
と、言ってくるウルフェルト。
奴はニヤリと挑発的な笑みを浮かべ、ジークへと言ってくる。
「人間以下の戦闘能力になった雑魚狐共は、ただの奴隷として人間様に奉仕する喜びを与えてやってるのよ――貴様も試してみるか、魔王? あいつらの身体は気持ちいいぜぇ……くく、くははははははははははははっ!」
「…………」
「おいおい、そんなに睨むなよ。貴様は賭けに負けたんだ――さっさと仲間を連れて、このコロシアムから失せろ」
言って、ジークへと背を向けるウルフェルト。
奴は最後にジークへと言ってくるのだった。
「まさか魔王様ともあろう者が、約束を反故にしたりしねぇよなぁ?」




