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第四章 不死身の男

「居るんだろ。降りて来い、この街の似非勇者――ウルフェルト!」


 言って、ジークは観客席を指さす。

 そこから感じたのは、この時代に相応しくない凄まじい魔力。


 その魔力はブランを完全に凌駕している――どころか、ジークにすら匹敵している。

 そして何より、それに比例するかのように歪な魔力。


(吐き気がする……どうやったら、こんなに腐りきった魔力を放てるんだ?)


 五百年前も含め、あらゆる意味で最強クラスの魔力と存在感。

 とくれば、その持ち主が誰かなど決まりきっている。

 などと考えた後、ジークが答観客席の一方を睨んでいると。


「さすがは魔王。オレがここに居ると、よく気がついたなぁ!」


 聞こえてくるのは野太い男の声。

 同時、ジークが見ていた方から飛んできたのは、巨大な斧。

 それは凄まじい轟音と速度で、ジークの少し前へと突き刺さる。

 その直後。


 響き渡る爆音。

 大地を揺るがす程の振動。

 立ち上る大量の砂埃。


「面倒な演出を……」


 言って、ジークは片手を振り払う。

 すると周囲に舞っていた砂埃は消え去り、開けていく視界。

 見えてきたのは――。


(ほぅ……なかなかやるな。この感じからして、大分手加減しているのが見て取れる――だとすると、魔力だけじゃなく力も俺に匹敵している、か)


 見えてきたのは、粉々になった闘技台――剥き出しになった大地。

 さらに、斧が突き刺さった場所を中心に、縦横無尽に奔る亀裂。

 そして、いつの間にやらその隣に立っていたのは。


「お呼びいただいて光栄。もうわかってるだろぉが、オレがこの街の勇者――呪術師ウルフェルト・ザ・カース二世だ」


 身長は200cmを軽く超え。

露出の多い服から覗くのは、ガッチリと膨れ鍛え上げられた褐色の筋肉。


 そしてそれに相応しい荒々しい赤の長髪と、獣のような歯。

 片方は眼帯によって隠されているが、その瞳は血に飢えているように見える。

 ジークはそんなウルフェルトへと言う。


「勇者にも呪術師にも見えないな。どう見ても狂戦士のそれだ」


「はっはぁ~~~~~~~~~~~~っ! 面白れぇことを言いやがる! 機会があれば、今度ゆっくり話でもしたいもんだなぁ?」


 言って、背丈を超える程大きな斧を軽く地面から引き抜くウルフェルト。

 ジークはそんなウルフェルトへと続けて言う。


「俺はお前みたいな奴と話したくはない――だが、これだけは聞いておきたい」


「なんだよ、魔王?」


「この場所は――イノセンティアはミアの街だ。ミアの平和の象徴、あいつの墓標と言っても過言ではない」


「あぁ、だからなんだ?」


「それだけじゃない。この街に暮らす狐娘族は、ミアと共に人間のために戦った偉大な戦士の一族――故に彼女達は聖獣と呼ばれている」


「おいおいおい、だからなんだ? 結論を言えよ魔王、オレは回りくどいのが嫌いなんだ」


 なるほど。

ならば問答はやめだ。今すぐに結論を言ってやる。


「イノセンティアを――ミアと狐娘族を穢したお前は、絶対に許しはしない」


 言って、ジークは片手をウルフェルトへと向ける。

 そして、発動させるは――。


「上位闇魔法 《エクス・ルナ・アポカリプス》」


 直後、ジークの手から放たれたのは、膨大な魔力を圧縮して作った極小の闇の球体。

 それは凄まじい速度でウルフェルトへと向かっていき――。


「はっ……ガッカリだぜ。この程度かよ、魔王っ!」


 言って、斧を振りかぶるウルフェルト。

 奴は斧に膨大な魔力を纏わせたのち、それを件の球体へと振るい。


 バチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチッ!!


 ジークの上位闇魔法、ウルフェルトの斧。

 それらがぶつかり合って巻き起こったのは、激しい漆黒の雷。


 ジークとウルフェルトの魔力がせめぎ合っているのだ。

 はたして、その勝敗の行方は――。


「まぁ、オレの力は……ざっとこんなもんだっ!」 


 聞こえてくるウルフェルトの声。

 同時――。


 遥か上空で巻き起こったのは、雲を残らず消し飛ばす漆黒の爆発。

 巻き起こった暴風は、大地にまで届いてくる。


 いったい何が起きたのか。

その答えはとても簡単だ。


(観客席に影響しないよう、ある程度加減して撃ったとはいえ……まさかこれほどとはな)


 ウルフェルトはジークの上位闇魔法を、斧で空へと弾いたのだ。

 しかも軽々と。


(だがなんだ? ウルフェルトが、斧に纏わせた魔力に感じたあの違和感は)


 醜悪な魔力と混ざり合い、歪みきっていたが。あの魔力は――。

 と、ジークがそこまで考えた瞬間。


「何を黙っているんだ、魔王?」


 などと。

 そんなウルフェルトの声が聞こえてくるのだった。


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