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第三章 呪術師3

「誰に拳を向けているか、お前はわかっているのか?」


「ァ……グッ」


 と、ジークの声に対し、戸惑った様子のオーガ。

 ジークはそんなオーガへと、さらに言葉を続ける。


「五百年前より魔物の知能が低下しているのは把握している。しかし、俺が誰であり……俺が何を言っているかくらいはわかるだろう」


「マオ……ゥ。ワレラ……ノ、オウ……ッ」


「矮小な人間などに従うな――お前は誇りあるオーガだろ。こんな街に居るべき存在ではない。そんな事もわからないのか?」


 言って、ジークはもう片方の手をコロシアムの壁へと向ける。

 そして、彼は周囲の空気が赤熱するほどの魔力球を放ち、そこに大穴を空けたのち、オーガへとさらにに言う。


「行け。魔物として、オーガとして誇り高く生きろ――常に強くあれ」


「ホ、コリ……ツヨ、ク」


 と、理解したのかしていないのかオーガ。

 奴はジークに一礼したのち、コロシアムから走り出ていく。

 同時、『オーガが逃げた』と大混乱になるコロシアム――ジークの知ったことではないが。


「でだ、大丈夫か? 八重とやら」


「う、そだ……お、まえは――この感じ、本物……の? あ、ありえな――っ」


 と、ジークの言葉に返してくるのは八重だ。

かわいそうに、彼女はすっかり怯えてしまっているに違いない――じりじりと後ずさり、どんどんジークから離れていくのだから。


 きっと、オーガに殺されかけたのが怖かったに違ない。

 などなど、ジークがそんな事を考えていると。


「おい! 八重、てめぇ……いったい何をしている!?」


 と、聞こえてくるのは男の声。

 見れば、コロシアムの隅から闘技台へ向け、一人の男が歩いてきている。


 声の感じからして――先ほどまで、魔力を使ってコロシアム全体に声を響かせていた男に違いない。

 そんな男は、ジーク達の方へと近づいて来るとジークを一睨み……八重へと言う。


「さっさとこっちに来い! 試合を滅茶苦茶にしやがって……てめぇはお仕置きだ!」


「嫌だ!」


 と、間髪入れずに返す八重。

 彼女は男を睨みながら、さらに言葉を続ける。


「約束を破る人間なんかに、もう八重は従わない!」


「ったく、つくづくバカな連中だな――狐娘族ってのは」


「八重も、八重の一族もバカじゃない!」


「いいやバカだね。何度仕置きしても、てめぇはこいつの存在を忘れて、反抗的な態度を取るんだからな」


 言って、男は八重へと手を翳す。

 直後。


「っ……ぁああああああああああああああああああああああああああああっ!?」


 両手で身体を抑えるようにし、苦しみ始める八重。

 彼女は立っているのも辛いに違いない――地面へと倒れ込み、一際もがき苦しむと。


「ぁ……っ」


 と、やがて静かになる八重。

 生きてはいる――戦闘の疲れと、男の行いのせいで気絶したに違いない。

 ジークはそんな八重を見た後、男へと言う。


「呪術か。首に刻んでいる《隷呪》に魔力を流すと、刻まれている者を苦しめる呪いが発動する……ってところだろ?」


「なんだてめぇは?」


 と、質問に質問で返してくる男。

 奴はそのまま、ジークへと言葉を続けてくる。


「あぁ、そう言えばそうだ――そもそもてめぇが、試合を滅茶苦茶にしたんだったなぁ?」


「八重は正々堂々と魔物と戦い、勝ちをもぎとった。そんな彼女との約束を守らなかっただけでなく、呪術で苦しめるなどどういう神経をしている?」


「はっ! 偉そうにしやがって! 勝手に闘技台に入って試合を壊したてめぇにも、この俺様の呪術を味合わせてやるよ!」


「…………」


 ダメだこいつ、話がかみ合わない。

 どうやらこの男は、ジークの質問に答える気がないに違いない。

 ならばジークにも、考えがある。


「アイリス!」


「はいはい! 呼ばれて飛び出てアイリス、ただいま参上しました!」


 と、ジークの言葉に対し、悪魔羽をぱたぱた迅速に彼の方まで飛んできてくれるアイリス。

 ジークはそんな彼女へと言う。


「この狐娘族――八重をユウナのところまで運んで、治療させてやってくれ」


「え、やですよ! 裏切者の狐娘族なんか、死んでも触りたくないんですけど!」


「俺の頼みでもか?」


「え~~~! 卑怯ですよ、その言い方! もう……仕方ないですね、付けですからね!今日の夜支払いですからね!」


「あぁ、助かる――ありがとう、アイリス」


「くっ……これが惚れた弱みかっ!」


 と、ぶつぶつ言いながらも、丁寧な様子で八重を運んでいくアイリス。

 ジークがその様子を見ていると。


「おいてめぇ、八重は俺様の奴隷だぞ! 勝手に持っていくな!」


 などと。

 そんな男の声が聞こえてくるのだった。


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