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第一章 犯罪都市イノセンティア3

 そうしてあれから少し後。

 現在、ジーク達は徒歩でイノセンティアへと向かって歩いている。


「ブラン、疲れてないか?」


「ん……余裕」


 と、ジトっとした瞳で、ブイサイン――いまいち感情の読み取れないブラン。

 一見疲れている様にも見えるが、彼女のジト目無表情はデフォルトだ。

 ジークはそんなブランの頭をぽふぽふ、そのまま彼女へと言う。


「まぁなんにせよ、お疲れ様だ。お前のおかげでイノセンティアにかなり早く来れた」


「まおう様のためなら、本当に疲れない……アイリスを怒るときは、すぐに疲れるのに」


「ちょっと! なーに私の悪口を言ってるんですか!」


 と、割り込んで来るのはアイリスだ。

 ブランはそんな彼女へと、ため息一つ言う。


「ん……ブランは別にアイリスの悪口は言ってない」


「しらばっくれても無駄ですよ!」


 と、ぷんすかした様子のアイリス。

 そんな彼女はブランの腋へと手を伸ばしながら。


「悪い子ブランはこうです!」


「ちょ……っ。く、くすぐらない、でっ」


「そらそらそら!」


「っ……やぁ。ま、まおう様……た、たすけっ」


 改めて思うが、本当に平和な世の中だ。

 五百年前の戦乱を収め、この平和を作ったミア。

 彼女には心の底から「すごい」と思わざるを得ない。


(そう考えると、現代の平和を乱しまくっている勇者達はやはり許せないな)


 さて、このイノセンティアに巣食っているに違いない勇者。奴はいったいどんな悪事を働いている事やら。


 と、ジークが視線を向けた先――そこに在るはかつての光の都。

 聖獣が住まい、ミアの本拠地として栄えた聖都『イノセンティア』だ。


「ようやく到着、か」


 終りが見えない長く巨大な城壁。

 中央に見える巨大な城を中心に栄える城下町。

 そして、それら全てが特徴的なデザインをしている。


(たしか『和風建築』だったか? 狐娘族の先祖が住んで居た『東の果にある国』のデザインを、再現したものとか)


 まぁ、そんな事はどうでもいい。

 ジークの目を一際引いたのは、城壁にある巨大な門だ。


 ジークの記憶が確かならば、五百年前のあの門は常に閉じられ、ミアの魔力で結界が張られていた――当然、ジーク達敵勢力の侵入を拒むためだ。

 今ではそんな扉が開かれているのだ。


(もう閉じる理由がないってことか。その敵だった俺が言うのもなんだが、本当に平和になったんだな……だからこそ、本当に現代の勇者は――とっ)


 まずい、思考がループしてきている。

 いったん、現代勇者の事を考えるのはやめよう。不愉快になるだけだ。


 ジークはそんな事を考えながら、仲間を引き連れイノセンティアの城門をくぐる。

 と、その瞬間。


「おいおいおい、待てやてめぇら!」


 聞こえてくるのは、見るからに柄の悪そうな男の声。

 同時、ジーク達の前には想像通りの男が立ちふさがっている。

 男はペロリと舌を蛇の様に出した後、ジーク達へと言ってくる。


「ここを通りたきゃ、門番である俺様に通行料を払いな!」


「意味不明なんですけど! あっちの人は通ってるじゃないですか!」


「アイリスに同意する。そもそも、おまえはどういう立場の者なのですか? どう見ても門番には見えないのですが」


 と、真っ先に反応したのはアイリスとアハトだ。

 すると、男はそんな二人へと言う。


「随分反抗的な女どもだな……ちっ、いいか? この街にはこの街のルールがあるんだよ。黙って俺様のいう事を聞けや!」


「だから、そのルールが怪しいって言ってるんですよこっちは! あんまり喚くとバブちゃんにしますよ!?」


「そもそも、おまえが要求する額とは、いったいいくらなのですか?」


「そうだなぁ、どれくらいがいいか。よし、一人十万――てめぇら全員通すのに手数料込で五十五万エンだ」


 直後、よりいっそう反発し始めるアイリスとアハト。

 当然だ。どう考えても法外な金額なのだから。


 五十五万エンもあれば、しばらく生活に困らないに違いない。

 などと、ジークがそんな事を考えていると。


 くいくい。

 くいくいくい。

 と、引かれるジークの袖。


「まおう様……あいつ、凍らせる?」


 ジトッといつものブランさんだ。

 やはり彼女は疲れているに違いない――よりいっそう怠そうな様子で、さらにジークへと言ってくる。


「ん……どうせあれは偽物。門番でもなんでもない。そういう輩は凍らせてポイするのが一番早い(ドヤッ)」


「まぁ、それが一番早いのは異論ない」


 と、ジークはブランと返す。

 するとGOサインと勘違いしたに違いない。

 ブランはジークへと言ってくる。


「ん……じゃあすぐにやる。上位氷魔法 《エンシェント――」


「待て。無駄な魔力は使わなくていい。お前は少し休んでろ」


「まおう様がそう言うなら……休む。でも、他に何か手がある?」


「任せろ」


 まず、あの門番(仮)が本物である確率はゼロだ。

 理由は簡単――本物ならば値段を聞かれた時に『そうだな、どれくらいがいいか』などと、ナンセンス発言はしたりしない。

 その場で決めているのが見え見えだ。


(よって、クソ勇者に無理矢理働かされている一般人説はなしだ。あいつはどう考えても、自発的に半ばカツアゲじみた行為をしている)


 ならば手加減無用。

 疲れているブランのためにも、魔王流のスマートな解決策を見せればいい。


 考えた後、ジークは門番(偽)のもとへと歩いて行く。

 そして、ジークはアイリスとアハトを下がらせた後、門番ことカツアゲ男へと言う。


「わかった。言われた通り金を払わせてもらう。身内が駄々をこねて申し訳なかった」


「なんだよ、話がわかるじゃねぇか」


 と、ニヤニヤと不快な笑みを浮かべてくるカツアゲ男。

 ジークはそんな奴へと、さらに言葉を続ける。


「ただ、金は持ち合わせがない。代わりと言っては何だが、そこに俺達の荷物がある――あれで勘弁してくれないか?」


「ん……あぁ、あの袋か? なんだよ、金目のもんでも入ってんのか?」


 言って、カツアゲ男はジーク達から少し離れた場所へと歩いて行く。

 そして、男は男にだけ見える袋を開くと――。


「な、なんだこれ!? ダイヤモンドじゃねぇか! それもこんなに沢山!? マジかよ! おいおいおいおいおい! すげぇ、マジかよ!?」


 と、一人騒ぎ始める。

 どうやらもう、ジーク達の事は眼中にないに違いない……故に。


 全てを理解し、ニヤニヤしているアイリス。

 興味なさそうなブラン。

 不思議そうなアハト。


 ジークは彼女達を呼び、イノセンティアの門をくぐっていく。

 なお、ユウナはというと。


「じ、ジークくん!? あの人に何かしたの?」


 と、なにやら慌てている様子。

 彼女はたたっとジークの隣にやって来ると、そのまま言葉を続けてくる。


「だってあの人、急にその……お馬さんのその……えと、う○ちに手を入れて『ダイヤモンドだ』って」


「因果応報ってやつだ。悪事を働くからやり返される」


 と、ジークはユウナへと返す。

 すると、ユウナはなにやら納得した様子でジークへと言ってくる。


「やっぱり……いったい何をしたの?」


「精神操作魔法を使った。自分で言っていたが、今頃あいつは『馬の糞がダイヤに見えている』ことだろうな」


「だ、大丈夫なの? その……ずっとそのままだったりは」


「ユウナは優しすぎだ。まぁそこがお前のいいところだが――お前の心配のために言うが、答えは『大丈夫』だ」


「よかったぁ。悪い事をしているっていうのはわかるけど、改心のチャンスを与えられないのは、やっぱりかわいそうだからね!」


「あぁ、そうだな」


 もっともこれから数時間後、精神操作魔法が解けた時。

 あの男が自分のしていた事に気がつき、正気で居られるかは不明だが。


(キスしてからな、ダイヤに)


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