第一章 犯罪都市イノセンティア2
「アイリス。俺達がイノセンティアに向かっている理由を覚えているか?」
「…………」
こちらも白竜ブラン同様、顔をぷいっとするアイリス。
なるほど、どうやらわかっていないようだ。
ジークはため息一つ、そんなアイリスへと言う。
「俺達はアルスの街で、その街を仕切るクズ勇者――錬金術師のミハエルを倒したまではいいな?」
「はい、もちろんですとも!」
「そして俺はその際、ミハエルが研究していた勇者関連の資料を得た。その内容っていうのが……」
「あ、《勇者の試練》! 思い出しましたよ! 《勇者の試練》を受けに行くんですよ! たしかあれですよね!? 資料によると、《勇者の試練》がイノセンティアにあるんですよね!」
と、ドヤっと悪魔尻尾をふりふりアイリスさん。
要するにそういう事だ。
なお、捕捉しておくと《勇者の試練》とは、ユウナを『真の勇者として覚醒』させる試練のことだ。
五百年前にジークを打倒したミア。
彼女も《勇者の試練》をこなす度に、どんどん強くなった記憶がある。
(さすがの俺も、《勇者の試練》がどんなシステムなのか、どんな試練を課せられるのか――そういった詳細まではわからないがな)
そして当然、ミハエルもそこまでは調べていなかった。
故にこればかりは、実際に受けてみるしかない。
「そういえばジーク、聞きたい事があるのですが」
と、いつのまにやら近くに座り、首をひょこりとかしげているのはアハトだ。
ジークはそんな彼女へと言う。
「聞きたいことってなんだ? 知っている事なら何でも答えるが」
「はい。そもそも、その……イノセンティアという街はどういうところなのですか?」
「五百年前の知識で言うなら、聖獣が住まう光の都と言われていたな」
「聖獣、ですか?」
「裏切者ですよ! それはもう汚い、裏切者連中ですよ 魔王様を裏切って、ミアに味方した魔物の風上にもおけない、くそ狐達ですよ!」
と、会話をぶった切って来るアイリス。
ジークは彼女を押し戻した後、再度アハトへと言う。
「俺がミア率いる人間達と戦っていた時代。狐娘族という魔物の一族が居てな――そいつらはある時、ミアの思想に感動したとかで、俺から離れて人間側についた」
「なるほど、それでアイリスは裏切者と」
と、納得言った様子のアハト。
ジークは昔の事を思い出しながら、アハトへとさらに言葉を続ける。
「まぁ、思想は様々だ。別に咎めるつもりはない。それはそうと、それ以来狐娘族は人間達から『魔物』ではなく『聖獣』と呼ばれるようになったわけだ」
「なんとなくわかりました。だからイノセンティアは『聖獣が住まう光の都』と、呼ばれているわけですね」
「『聖獣』の分部はな。『光の都』たる所以は他にある」
「ミアですよ、ミア! ミアの本拠地だったんですよ! か~~~~ぺっ! な~にが光の都ですか! 邪悪な都の間違いじゃないですかね!?」
と、またも会話をぶった切ってくるアイリス。
しかも今度はアイリスさん引っ込む気配がない。
アハトにある事、ない事を吹き込みまくっている。
わーわー。
きゃーきゃー。
などなど。
いつの間にやらユウナも交えてにぎやかになる白竜ブランの背中。
「邪悪な都、か……」
しかし、ジークは賑やかになれる気分ではなかった。
理由は簡単。
先ほど話したイノセンティアは、五百年前のイノセンティアの話。
今のイノセンティアからは、あまりいい噂を聞かないのだ。
無論、それが本当かどうかなど、実際に行ってみなければわからない。
ただできることならば。
(イノセンティアは俺の好敵手、人間達の守り手であったミアの……最強にして真の勇者だったあいつの象徴とも言える街だ)
汚してほしくはない。
ジークがそんな事を考えている間にも、次第に目的地が見えてくる。
(イノセンティアに直接降りると、騒ぎになって面倒そうだな。ブランも疲れているだろうし、降りてすぐの戦闘は避けたい)
となれば、言うべき事は決まっている。
ジークは白竜ブランを一撫で、彼女へと言うのだった。
「イノセンティアから少し離れた場所――そうだな、あそこの森の中に降りてくれ」




