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第一章 犯罪都市イノセンティア

 時は魔王ジークが、クズ勇者ミハエルに支配されたアルスの街を解放してから少し後。

 場所は――。


「見て見てジークくん! あそこにすごく大きな滝がある! すごい……虹がかかっていて、とっても綺麗!」


 と、聞こえてくるのは赤を基調とした服を身にまとった少女。

 ポニーテールがトレードマークな元気はつらつな彼女こそは、勇者見習いユウナ。


 この時代に蔓延る血筋だけのクソ勇者と異なる存在。

右手の甲に正統な勇者の証である《光の紋章》を宿した少女だ。

 そんな彼女は瞳をキラキラさせながら、ジークへと言葉を続けてくる。


「前にブランさんの背中に乗った時も思ったけど、やっぱり飛べるってすごいね!」


「そんなに気に入ったか?」


 と、ジークはユウナへと返す。

 すると、彼女はそのまま彼へと言葉を続けてくる。


「うん! とっても羨ましい! だって、こんな景色は普通人間が見れないものだもん! 一生の思い出――ブランさんには感謝してもしきれないよ!」


「あとで直接言ってくれ、ブランが喜ぶ」


「うん、もちろんだよ!」


 と、一瞬振り返って笑うも、すぐに景色に夢中になるユウナ。

 話に出たブランとは、ジークと同じく宿魔人――魔物から転生した人間の少女だ。


 真っ白な髪と肌を、真っ白な帽子とローブで覆った魔法使いの少女。

 それがブランだ。


(もっとも、それは人間状態の話だがな)


 現在、ブランは白竜になっている。

 彼女はホワイト・ルナフェルトという竜族の宿魔人なのだ。


 そのため、彼女は巨大な白竜に変身する事が出来る。

 さて、遅くなったが要するに――現在の場所は。


「ユウナの言葉にはわたしも同意します。ブランの背に乗って空を飛ぶ事が、こんなに素晴らしいとは……胸が感動で締め付けられるような、初めての感覚です!」


 と、やや興奮した様子で、ユウナと同じく景色に集中している人物が一人。

 白を基調とした服を身にまとい、金の長髪を風になびかせる少女。


 彼女の名はアハト。

『五百年前にジークを倒した伝説の勇者――ミア・シルヴァリア』のホムンクルスだ。

 アハトは剣の扱いにかんしては、まさしく最強クラス。しかし、ホムンクルスとして精製される際の欠陥で、魔力と魔力に対する耐性を持っていない。


(まぁ、そんな事は『アハトが俺の仲間』という事実に、微塵も関係ないがな。魔力があったところで、性格最悪で凄まじく弱い現代の勇者や冒険者達という事例もある)


 などと。

ジークがそんな事を考えていると。


「もう! 魔王様ってば、そろそろ飽きましたよ!」


 と、ジークの思考を裂くように聞こえてくる元気な声。

 見れば、そこに居たのはピンクのツーサイドアップのサキュバス少女。

 悪魔羽と悪魔尻尾がトレードマークの彼女こそは、今も昔も大切な仲間――アイリスだ。


 彼女はジークやブランと異なり、宿魔人ではない純粋な魔物だ。

 それも、五百年前から生き続けている。


「アハトもユウナも変ですよ!」


 と、言ってくるアイリス。

 彼女はそのまま、ジークへと言葉を続けてくる。


「二人とも地面ばっかり見て、何を感動しているんですか!?」


「お前には羽があるからな」


 と、ジークはアイリスへと返す。

 そして、彼は彼女へとさらに言葉を続ける。


「飛べない人間には、こういう体験が珍しいんだ」


「え~~~っ! そんなもんですかね? 魔王様もですか?」


「そうだな、こういう風に落ち着いて景色を見た事はなかったからな」


 改めて聞かれると困る。

 確かに綺麗だとは思うが、そこまで感動したりはしない。

 きっと、個性や感性の問題に違いな――。


「っていうか魔王様! あとどれくらいで目的地につくんですかね!? 何時間何分何秒くらいですかね!?」


 と、またもジークの思考をぶった切って来るアイリスの声。

 ジークはそんな彼女へと言う。


「アルスの街を出てから、大分経ったからな。イノセンティアにはそうかからないうちに到着するだろ」


「早くつかないですかね! もうこのアイリス、楽しみで楽しみで!」


「別に観光に行くわけじゃないぞ?」


「わかってますとも! ただ、この『ブランの背中で座ってるだけ』地獄から解放されればそれでいいんですよ!」


「ぐるるるっ!」


 と、聞こえてくる白竜ブランの唸り声。

 アイリスは白竜ブランの背中を、ぺしぺし叩きながら彼女へと言う。


「別にブランの悪口を言ったわけじゃないですよ! 暇なだけですって!」


「ぐるるるるる……がうっ!」


「はいはい、文句言いませんよ! ブランももっと気合い入れて飛んでくださいってば!」


「……(ぷいっ)」


 と、なにやら首を逸らしている白竜ブラン。

 今日も仲がいいようで何よりだ。


 さて、それはともかく、ジークには少し気になったことがある。

 それは前回アルスに向かった時と同じ事なのだが。


「アイリス。俺達がイノセンティアに向かっている理由を覚えているか?」


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