プロローグ 最悪の勇者3
「さぁ、ウルフェルト! 次はお前だ! 私が成敗してやる!」
と、まったく疲れた様子のない椿。
彼女は間髪入れずに、ウルフェルトに向けて飛びかかって来る。
こうして相対するとわかる。
やはり凄まじい速度だ。常人では何をされているかわからず、負けるに違いない。
「これで終わりだ、ウルフェルト!」
と、目の前から聞こえてくる椿の声。
きっと勝ちを確信しているに違ない――これで狐娘族は自由になると。
(この瞬間が、たまらねぇっ!)
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!
と、城全体が揺れる程の振動。
部屋の床が大破し、その下の地面が見える程のクレーター。
ウルフェルトはそれを見ながら、椿へと言う。
「おいおいおい。希望が木端微塵に砕けちまったなぁ……残念だったなぁ、オレに勝てると思ってたのになぁ」
「あ……ぅ、ぁ」
と、ぴくぴくしている椿。
何が起きたのかは簡単だ。
ウルフェルトは椿の攻撃を捌ききったのだ。
一瞬の間に放たれた椿の十連打を全て弾き、顔面へと手を伸ばす。
そして、彼は椿の顔面を掴んだまま、床へと打ち付けてやった。
結果がこれだ。
「わ、私は……あ、ぅ。負けるわけ、には……かひゅっ」
と、そんな椿は惨め極まりない。
ウルフェルトはそんな彼女を見て、良い事を思いつく。
故に彼は、雅のもとへと歩いて行く。
そして、ウルフェルトは雅の鎖を破壊し、椿を指さして言う。
「おい雅。そこにある鞭で、お前の姉――椿を打て」
「い、いや……そんなのっ」
と、返してくる雅。
ウルフェルトはそんな彼女へと、さらに言葉を続ける。
「だったら、オレが椿に罰を与える。さて何をしてやるか。爪を剥がすのもいい、それとも四肢を――」
「ま、待って! あ、あたしがやる……から」
「なにを?」
「あ、あたしが……椿姉さんに、罰を……与えます」
言って、鞭を手に取る雅。
ウルフェルトはそれを見てニヤリと笑った後、カインへと近づいて行く。
そして、彼はカインの肩へと手を伸ばし言う。
「おい、大丈夫かカイン?」
「うっ……ウルフェルト、様? お、俺はいったい――」
と、頭を抑えているカイン。
ウルフェルトはそんな彼へと言葉を続ける。
「大丈夫だ。もう安心しろ」
「あ、ありがとう……ございます。す、すみませんでし、た」
「なに。いいってことだ……なんせ、貴様はもう死ぬんだからな」
「……へ?」
「上位呪術 《エクス・アブソーブ・オールステータス》」
直後、カインの身体は黒紫の光に包まれ、凄まじい速度でやせ細っていく。
そうして、時間にして数秒にも満たない時間。
ウルフェルトの前には、カインだったミイラが居た。
「使えねぇ部下はいらねぇ。せめて、オレの力の糧になれ」
そんなウルフェルトの背後からは、鞭の音と悲鳴、そして嗚咽が何度も聞こえてくるのだった。




