ブランは興味を持ってみる9
結論から先に言おう。
勝負は決した。
「アイリスお姉たん……ブラン、お姉たんのこと、しゅき!」
と、ブランが言い放った直後。
アイリスは手のひらくるーして、ブランに二百点を与えてきた。
故に。
アハトとの勝負は、ブランの勝利に終わったのだ。
だがしかし、問題もある。
さてさて、時はあれから数時間後。
場所はアルスの街、宿屋に併設された酒場。
現在、ブランはカウンター席に座り、飲み物をちびちび飲んでいる。
そして、その隣に座っている人物こそが件の問題。
「もう一度『お姉たん』って呼んでくださいよ!」
と、言ってくるのはアイリスだ。
ブランはそんな彼女に視線を向けずに言う。
「や!」
「え~~~~! 意地悪言わないでくださいよぉ!」
「…………」
「私とアイリスの仲じゃないですか! ほらほら、一回言ったんですから、二回目も三回目も変わりませんって!」
「…………」
「『アイリスお姉たん』って、媚びた感じか照れた感じで言ってください! こんどは私の記憶のメモリーにしっかり保存するんで!」
「……はぁ」
要するに、これこそが問題なのだ。
ブランはアハトに勝利してから、アイリスに数時間これを言われ続けている。
どこへ行くにもついて来て、ひたすら同じことを連呼されるのだ。
嫌なら言ってやればいい。
そう思うかもしれないが……。
「ブランはもう騙されない……アイリスはそう言って、ブランに何回もその言葉を言わせて来る。ん……ブランはもうアイリスの要望に何回も答えてる」
「あは♪ だから、これが最後ですって!」
と、ブランの言葉に返してくるアイリス。
これは詐欺だ――最後最後詐欺だ。
前回も前々回も同じことを言って、ブランを騙してきた。
(ん……アイリスお姉たんって、何回呼ばされたかわからない)
思い返してもため息がでる。
アハトとの勝負の際に、あんな呼び方をしなければよかった。
試合に勝って、勝負に負けた。
ブランの脳内では、何度もその言葉が響いている。
こんな事ならば、アハトに勝ちを譲ればよかった。
などなど。
ブランがそんな事を考えている間にも。
「最後! これが本当に最後です! 本当に最後のラストですから!」
と、手を合わせてくるアイリス。
ブランは盛大にため息をついたのち。
「……はぁ」
と、ジトっとした視線をアイリスへと向ける。
すると、アイリスは期待した様子でブランへと言ってくる。
「わくわく! わくわく♪」
「ん……本当に、これで最後?」
「もちろんですとも!」
「じゃあ……言う」
おほん。と一声。
ブランは照れた表情を作り、瞳をうるうるアイリスへと言う。
「アイリスお姉たん……ブラン、お姉たんのこと、好き」
「ぶほっ」
と、変な声を出してくるアイリス。
彼女は興奮した様子で、カウンターをバンバン叩いている。
きっと、頭がおかしくなったに違いない。
けれどなんにせよ、これで終わり。
ブランはアイリスから解放さ――。
「もう一回! もう一回お願いします!」
と、聞こえてくるアイリスの声。
瞬間、ブランはわかりきっていた事を悟るのだった。
「ん……もうアイリスの事は信じない!」
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