ブランは興味を持ってみる
時は昼。
場所は宿屋。
「…………」
「どうしたんだブラン?」
と、聞こえてくるのはジークの声だ。
彼は続けて、ブランへと言葉を続けてくる。
「ずっと窓から外を見てるよな?」
「……はっ!」
「?」
「ぽけ~……っとしてた」
朝から考え事をしていたら、ついついうっかりしてしまった。
今日はまだ、窓の前から一歩も動いていない気がする。
「それで、何を考えてたんだ?」
と、そんな事を言ってくるジーク。
ブランはそんな彼へと言う。
「ん……アハトのことを考えてた」
「アハトの? 朝から今まで、ずっと考えるくらい難しい内容か?」
「アハトはミアと似てる。でも、ミアとアハトは違う」
「それはそうだろうな、性格も違うし――そもそも別人だからな」
「だから気になる」
正直。
ブランはミアが、そこまで好きではない。
ジークのような好感は抱けない。
なんせ、ミアはジークを殺した張本人だ。
思い返せば五百年前の記憶を取り戻す前、ブランはミアの顔を何度も夢の中で見ていた。
(憧れるほど綺麗で、憧れるほど強い……だけど、許せない)
ブランの中では、常にそんな感情が渦巻いていた。
そしてそれは、記憶を取り戻した後も変わらなかった。
ミアの顔を思い出すたびに、どうしようもない感情が込みあがってくる。
だがしかし。
(アハトを見ても何も感じない……)
厳密に言うと、負の感情が微塵も沸いてこない。
ミアと同じ顔なのにだ。
(ミアの顔を思い出すだけで、むってしたのに……アハトはどうして)
ミア・シルヴァリアのホムンクルス。
アハト。
限りなくミアに近い存在。
けれど、アハトからは何も感じない。
むしろ……。
(もっと仲良くなってみたい)
そこが不思議なのだ。
顔は一緒なのに、中身が違うだけで、どうしてこう思うのか。
などなど。
ブランがそんな事を考えていると。
ぽふっ。
と、頭の上に手を置かれる。
ジークだ。
「アハトが気になるなら、あいつのとこに行ってきたらどうだ?」
と、そんな事を言ってくるジーク。
彼はさらにブランへと言葉を続けてくる。
「お前のことだ。『仲良くなってみたいけど、どうして仲良くなってみたいと思うのかわからない』とか考えてるんだろ?」
「!」
「図星か……仲良くなりたいのに、理由なんていらないだろ。まぁ、気持ちはわからなくはない。ミアと似てるから、色々考えるんだろ?」
「まおう様……ブランの心が読める?」
「とりあえず、アハトともっと話してみろ」
「…………」
「ミアと似ていても関係ない。アハトと仲良くなりたいなら、何も考えずにもっと話してみろ」
「ん……わかった」
魔王様からアドバイスをもらった。
となれば、あとは簡単だ。




