アハトのミニミニ冒険8
「それで、もう終わりなのですか?」
言って、アハトは油断することなく両断したキメラを見る。
さすがにこれで終わりとは思えない。
アハトがそう考える理由は簡単。
この大樹の様なキメラは、ミハエルが注意をしていた個体なのだから。
などなど。
アハトがそんな事を考えていると。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
と、不自然に揺れ出す地面。
同時。
巨大キメラの形に変化が起きた。
樹木状だった身体はどんどん肥大。
やがて、赤黒い巨大なスライムの様になる。
前形態と変わらぬ個所といえば。
スライムの側面――様々な場所から、魔物や動物の顔や手足が生えている事。
「より醜悪になりましたね……」
しかし、アハトにはわかる。
このキメラの強さもまた、桁違いなほどに上昇していると。
正直。
相手がスライムとなると、アハトの形勢はやや不利だ。
なんせ、スライム種には斬撃が効きずらいからだ。
(とはいえ、高威力の斬撃で広範囲をまとめて削り取れば、その限りではありませ――)
直後。
アハトの思考を裂くように飛来したのは、灼熱の熱線。
「っ!」
アハトは瞬時にその場から、後ろへ飛び退く。
すると、アハトが先ほどまでいた地面は。
(一瞬で溶解した!?)
さすがミハエルのキメラ。
品のない威力の攻撃をしてくる。
(あれは防ぐ手段がありませんね……おそらく剣で弾こうとしても、先に剣が解け落ちる)
ヒヒイロカネで出来た武器や、ジークの隷属の剣クラスの武器ならいけるだろうが。
ないものねだりをしても仕方ない。
手持ちをフル活用し、目の前の敵を殲滅するのみ。
考えた後。
アハトは剣を構え、地面を蹴ってキメラへと疾走。
しかし。
キメラも黙っていてはくれない。
「しっ!」
アハトは瞬時に剣を三度振い、飛来した氷塊を弾く。
キメラの攻撃だ。
(熱線だけでなく氷塊まで……他の能力も持っている可能性が高いですね)
アハトがそう考えた傍から……。
巨大キメラの側面に付いていた顔が、ぐるぐると移動。
その全てがアハトの方を向いて来る。
そして。
それらの口から放たれたのは。
熱線。
氷塊。
雷。
果ては酸から毒まで……。
様々な種類の攻撃だ。
どれも当たれば致命の一撃となる。
けれど、その速度は十分見切れる範囲。
「はぁああああああああああああああああああああっ!」
最低限の動作で熱線を回避。
大小様々な氷塊を切り刻み、時には弾き、時には躱し。
剣で近くの地面を抉り飛ばし、雷にそれを当てて相殺。
アハトはキメラのあらゆる攻撃を躱し。
ついに――。
「今度は先ほどの様には行きませんっ!」
両断では済まさない。
アハトは全力で剣を握りしめ、限界を超える速度で剣を振るう。
…………。
………………。
……………………。
しばしの静寂。
アハトは剣を一払い、それを眼前へと持ってくると。
「少し無理に使ってしまいましたね……この子には手入れをしてあげなければ」
剣は解け落ちそうなほどに赤熱していた。
アハトの剣速――それによる空気抵抗のせいだ。
これ以上、修理せずにこの剣を使えば、きっと折れてしまうに違いない。
「仕方ありません。キメラの卵の破壊は、その辺の岩で潰していくしかないですね……時間がかかりますが」
言って、アハトは手頃な岩を見つけるために歩き出す。
そんな彼女の周囲に、先の巨大キメラの痕跡はもはやない。
さらに言うなら。
「日差しが気持ちいいですね」
洞窟の天井……。
どころか、先の一撃で洞窟自体が消滅。
巨大な大穴が残るのみとなるのだった。




