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アハトのミニミニ冒険7

(これだけ穴だらけになれば、地面が相当脆くなっているはず)


 アハトの全力を持って地面を叩けば、下層へと続く穴をあけられるに違いない。

 考えた後、彼女は剣を振り上げる。

 そして――。


「はっ!!」


 アハトは剣を力任せに、地面へと叩き付ける。

 それと同時。


 アハトを中心にひび割れ、崩壊する地面。


 気がつくと、アハトの身体は宙を舞っていた。

 狙い通り地面が崩れた結果、下の階層へと到達したのだ。


 未だ空中のアハトは、視線を周囲へと向ける。

 すると見えてくるのは――。


 ドーム状の巨大な空間。

 自然に出来た物ではなく、何者かが意図的に作った形跡が見られる。

 そして、その空間の壁、天井、地面に点在する不気味な卵のようなもの。


「なるほど……おまえがキメラ達の親玉ですか?」


 アハトの視線の先――ドーム中央の地面。

 そこに居るのは巨大な木の様なキメラ。


 当然、ただの木ではない。

 至るところから、様々な魔物や動物の首が生え。

 至るところから、腕や手足の様なものまで生えている


 しかも全体が浅黒く、赤い血管の様なものが脈打っている。

 グロテスク極まりない。


 しかし当然、怯むわけにはいかない。

 周囲に卵がある以上、この親玉がキメラを増やしているのは確定事項。

 ここで全てを終わらせる。


 などなど。

 アハトがそんな事を考えた。

 その瞬間。


「っ……芸がない!」


 アハトが上層で撃退した触手。

 それが再び、彼女めがけて殺到してきたのだ。


 先ほどと違う点は一つ。

 その量が先の数倍以上ある事だ。

 しかし。


「いくら量があっても、その程度の速度!」


 言って、アハトは剣を振るう。

 彼女のもとへ達した触手を、順に……片っ端から切り落としていく。

 まるで、斬撃の障壁を周囲に纏ったかのように。


 遅い。

 脆い。


(やはりこの程度なら余裕……ですが)


 アハトの直感が告げている。

 このままではまずい。


(大量の触手と、それを斬った際の血液で視界が――)


 と、アハトがそこまで考えた。

 まさにその瞬間。


 ゴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


 と、聞こえてくる風切り音。

 感じる。


(凄まじい質量の何かが、迫ってきている……っ)


 未だ空中にいるアハト。

 彼女は身を捻らせ、一撃一撃によりいっそう力を乗せる。


 より早く。

 より鋭く。

 より深く。


 触手を切り飛ばす。 

 すると剣圧で吹き飛ばされた肉片と血液の間から、わずかに視界が開ける。

 そこから見えたのは――。


(巨大な触手――いや、木の根ですかっ)


 これこそが先ほどの風切り音。

 アハトが感じた気配の正体。


 要するに。

 この巨大キメラは、小さな触手でアハトの視界を奪い。

 その隙に巨大な触手による一撃を与えようとしたに違いない。


「わたしを……舐めないでもらいましょうか!」


 アハトは一撃、全力で剣を振るい――周囲の小さな触手を一掃。

 続く第二撃を、迫ってくる巨大な触手へと繰り出す。

 ただし。


(空中でこの質量を斬りおとすのは不可能、剣で攻撃の方向を変える!)


 考えている間にも、アハトへと迫ってくる巨大な触手。

 アハトはそれへと、やや寝かせた剣を振るう。

 直後――。


「っ」

 

 アハトの手へと伝わってくる凄まじい衝撃。

 想像以上に、キメラの一撃が強いのだ。


(しかし、まだ余裕はありますっ)


 キメラの巨大触手の一撃。

 アハトの狙い通り、それは彼女を撫でるように通りすぎる。


 けれど当然、いなしたからといって衝撃は受ける。

 アハトの身体は凄まじい速度で、地面へと吹き飛ぶ。


(ちょうど空中では戦いにくいと思ったところ、むしろ好都合です)


 地面に身体が叩き付けられる瞬間。

 アハトは空中で身を捻り、衝撃を殺しながら地面へと着地。

 改めて剣を構えた……瞬間。


 先ほどの巨大触手が、方向転換。

 アハトを叩き潰すかのように、再び迫ってくる。


「もうその攻撃は見切りました……その攻撃を当てるのなら、わたしが着地する前になんとかするべきでしたね」


 言って、アハトは剣を構える。

 そして、大きく一歩――足を前へと踏み込む。

 続いて全体重、全ての力を乗せて。


 一閃。


 アハトは剣を振るう。

 瞬間。


 アハトへと降り注ぐ太陽の光。


 ぶち抜いたのだ。

 アハトの全力の斬撃。


 その剣圧がキメラの触手を斬りおとし。

 その剣圧がキメラを中程から両断し。


 それだけにとどまらず。

 二層分の洞窟の天井をぶち抜いたのだ。


「それで、もう終わりなのですか?」


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