アハトのミニミニ冒険6
「ようやく思い切りやれますね」
言って、アハトが剣を構えた。
次の瞬間。
アハトの四方八方から、キメラが飛びかかって来る。
奴等の爪や牙、尻尾は一様に鋭い。
アハトはホムンクルスとはいえベースは人間。
キメラの攻撃を受けてしまえば、致命傷をうけるに違いない。
だがしかし。
「っ!」
アハトは一息のうちに剣を振るう。
全方向――キメラの頭部、胸、爪、首、足、腕へと。
「おまえ達の武器がどんなに優れていても、当たらなければ意味がありません」
言って、アハトは剣を横に一振り、キメラ達を睨んだ。
その直後。
バラバラになった。
無論、アハトがではない。
彼女へと飛びかかってきていた全てのキメラ達がだ。
「ミハエルが特別扱いしたキメラとはいえ、やはり所詮はこの程度ですか」
言って、アハトは剣をおさめる。
さて――どうして、キメラ達はバラバラになったのか。
その理由は簡単だ。
アハトが斬ったのだ。
一秒にもみたない僅かな時間。
その間。
アハトは周囲のキメラ全てに、斬撃をそれぞれ十以上繰り出したのだ。
結果、キメラは急所のみならず、爪や尾も完全に切り落とされ転がっている。
「いくら生命力の高いキメラとはいえ、これだけやれば息絶えるでしょう」
とはいえ、まだ終わったわけではない。
アハトがそんな事を考えた瞬間――。
地面から生えて来たのは、木の根の様な大量の触手。
アハトはすぐさま、その場から飛び退く。
しかし、触手たちはアハトの動きに反応し、アハトを追尾してくる。
(っ……先ほどのキメラ達より、反応がいいですね)
苦戦するほどではないが。
アハトは立ち止まり、剣を構えて触手へと意識を集中させる。
その直後。
触手が繰り出してきたのは、槍のような高速の連続突き。
しかし当たらない。
アハトは驚異的な動体視力と反射神経をもって、それら全てを紙一重で躱していく。
アハトが頭を横に動かせば、そのすぐ傍をかすめる触手。
斬りおとす。
アハトが肩を下げれば、その上をかすめていく触手。
斬りおとす。
アハトが一歩引けば、すぐ前をかすめる触手。
斬りおとす。
アハトが飛べば、真下に大量に交差する触手の突き。
斬りおとす、斬りおとす。
斬りおとす、斬りおとす、斬りおとす、斬りおとす、斬りおとす、斬りおとす、斬りおとす、斬りおとす、斬りおとす、斬りおとす、斬りおとす、斬りおとす、斬りおとす。
斬りおとすこと、およそ百。
アハトの真下から突きだしてきた触手。
彼女が後ろに下がりながら、最後とばかりにそれを斬りおとすと。
「ギィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!」
と、どこからか洞窟内に響く声。
同時、切断された触手たちは、それが出てきた穴へと引っ込んでいく。
「やはり本体は別にありましたか……」
斬っても斬っても動くわけだ。
そして、その本体とは触手が引っ込んでいった先にあるに違いない。
(といより先ほどの触手の持ち主こそが、今回の目標のキメラである可能性が高いですね)
アハトは意識を集中させ、生物の気配を探る。
すると、このフロアにもう生物の気配がないことがわかる。
となれば。
「ちょうどいいですね……さっさと、先に進ませてもらいます」
言って、アハトは視線を落とす。
そこにあるのは、触手が出入りしていた無数の穴だ。
(これだけ穴だらけになれば、地面が相当脆くなっているはず)
アハトの全力を持って地面を叩けば、下層へと続く穴をあけられるに違いない。
考えた後、彼女は剣を振り上げるのだった。




