アハトのミニミニ冒険5
「そもそも、ジーク達を心配させるより先に、この洞窟を攻略――キメラ達を殲滅すればいいだけの話」
言って、アハトは洞窟の入り口へと視線を移す。
その直後――。
全力で地面を蹴った。
アハトの身体は凄まじい速度で、前へと進む。
そして、瞬く間に洞窟の中へと突入。
(ジーク達を心配させないために、ここからは時間との勝負です)
そうして。
アハトは全集中力をもって、周囲の気配を探る。
(音の反響、空気の流れからして、この洞窟は二層構造になっていますね――それも、二層目はかなり深い位置にあり、空洞のようになっている)
しかも、そこからは何やら巨大な気配がするのだ。
同時、アハトはとあることに思い至る。
それは――。
(まさか、この最深部のキメラが元凶なのでは?)
おかしいとは思っていたのだ。
こう言ってはアレだが、ミハエルは強い。
少なくとも、キメラなどは片手であしらえるほどに。
そんな彼が、わざわざキメラを投棄などするだろうか。
否――ミハエルならば、その場で処分する。
なんせ、その方が手間がかからない。
(だとすれば、ミハエルはこの洞窟の最深部に保管していた……といったところでしょうね)
どこか欠陥があるが、処分するにはもったいない。
そんな個体を。
(しかし、ミハエルが居なくなった結果、なにかしらの封印が敗れた――そのせいで、保管されていたキメラが目覚めて暴走)
そう考えると辻褄があう。
さらにそう考えると、思い当たることが一つ。
先の森で、キメラに襲われた男の事だ。
どうしてこのタイミングで、急にキメラに襲われたのか。
最初からキメラが居たのなら、もっと前からそういう被害があってもおかしくはなかった。
(封印が解かれ、目覚めた最深部のキメラ――その個体が、繁殖している可能性がありますね)
要するに。
最深部のキメラの子供たちが、洞窟から出て人を襲っている可能性があるのだ
これはジークの件とは別で、急ぐ必要が出てきた。
なぜならば。
(ミハエルが倒されてからまだ数日。たったそれだけの期間で、こうまで成長する子を産めるキメラ……放置すれば、キメラの群れを作られかねませんね)
そうなれば事だ。
もしもだが。
そのキメラの子も、そのキメラと同じ繁殖力を持って居たら。
もはや群れどころでは済まない。
その災厄はアルス周辺では収まらなくなってしまう。
などと。
アハトが考えた。
まさにその瞬間。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
岩影から迫ってくる鋭い槍。
アハトはすぐさま反応――それを中程から切り落とす。
すると。
「ギィ――ッ!?」
と、聞こえてくる声。
見れば、そこに居たのは長大な尾を持つキメラだ。
しかし、その尾は中程から断ち切られている。
(なるほど、先ほどの槍に見えたのは、このキメラの尾ですか)
考えながら、アハトは視線を周囲へと向ける。
そして、彼女は誰にともなく言う。
「わたしは急いでいます。まとめてかかってきてはいかがですか? 安心してください――今のわたしは万全、おまえ達程度に遅れは取りません」
直後。
岩の影、地面や壁の隙間。
至る所から這い出して来る、大小様々なキメラ。
「……ふぅ」
こんな事を考えてはダメなのだが。
正直、アハトはストレスが溜まっていたのだ。
ミハエルとの一件では、ほぼほぼ万全の状態で戦闘できなかった。
「ようやく思い切りやれますね」




