アハトのミニミニ冒険4
時は数分後。
現在、アハトはキメラを追って森を疾走中。
(大分、森の奥までやってきましたね)
この森は錬金術に使える素材が沢山ある。
そのため、かつてミハエルの指示で、この森にはやって来たことがある。
それでも、ここまで奥まで来たことはなかった。
理由は簡単。
ミハエルから、そう指示をされていたからだ。
(今思い返してみれば、野生となったキメラの事を心配していたのかもしれませんね)
無論、アハトがキメラに負傷させられてしまうのをだ。
かつてのアハトは、ミハエルにとって大切な実験サンプルだったのだから。
しかしおかしい。
ミハエルはかなり自信過剰な方だ。
自身の作品となればなおさらに。
(となれば、わたしの戦闘能力については、過大評価傾向だったはず)
もちろん、ミハエルが『同じ作品』であるキメラも評価していた可能性はある。
けれど、アハトとキメラが交戦すれば、どちらが勝つかなど――。
「うっ」
と、アハトは思わず口元を抑える。
アハトもまた『ミハエルの作品』だと考えていたら、なんだか吐き気がしてきたのだ。
もうこれ以上、その事は考えない方がいいに違いない。
それに。
ミハエルが『アハトとキメラ』の戦闘を避けていたふしがあるなどと。
そんな事は正直どうでもいい。
(着いた先に居るキメラを、一匹残らず両断すればいいだけのこと)
などなど。
アハトがそんな事を考えている間にも、逃げたキメラは森を進み続ける。
そうして、時はさらに数分後。
(ようやく、ですか)
キメラが洞窟の中へと消えていったのだ。
きっと、あそこを巣にしているに違いない。
(どれだけ複雑な構造の洞窟かはわかりませんが、失敗したかもしれませんね)
ひょっとしたら、洞窟がダンジョン化している可能性もある。
もしそうであれば、攻略に時間がかかってしまう可能性がある。
アハトは街からここに向かう際。
急いでいたため当然だが、ジーク達に何も言って来ていないのだ。
アハトの帰りが遅くなれば、心配する可能性が高い。
(後の祭りですが、一声かければよかったですね)
とはいえ、ジークの事だ。
もし本当に心配になれば、アハトを探しに来てくれるに違いない。
「…………」
どれくらい心配し。
どれくらい必死に探してくれるだろうか。
(な、なんでしょう……心配かけたくないと思う一方、心配してもらえると嬉しいと言うか……この複雑な感情は)
それに、ジークの事を考えていると、身体が熱くなってくる。
アハトにとって初めての体験だ。
だがしかし。
アハトは気がついてしまう。
(っ! そういえば、わたしには魔力がないのでした――となれば、さすがのジークもわたしを探しに来れないのでは?)
なんだか残念な気分だ。
ジークに迎えに来てほしかった。
いやまて。
ジークならワンチャンあるかもしれない。
なんせ、アハトがミハエルにやられた際もしっかり助けにきてくれた。
今回も何かしらの方法で、来てくれる可能性は――。
「って、何を考えているんですか、わたしは……」
現在のアハトの役目は、ジークに助けに来てもらう事ではない。
当然、ジークに迎えに来てもらう事でもない。
いったいアハトの脳はいつの間に、こんなポワポワになってしまったのか。
情けなさすぎてため息しかでない。
「けじめをつけなさい、アハト」
やる時はやらなければダメだ。
アハトはそんな事を考えながら。
パンッ、パンッ!
と、自らの頬を両手で軽く叩く。
そして。
「そもそも、ジーク達を心配させるより先に、この洞窟を攻略――キメラ達を殲滅すればいいだけの話」
要するに。
最初から全力で行けばいいのだ。




