第二章 底辺冒険者は最強の魔王になる5
「っ!」
気が付くと、ジークは《隷属の剣》を掴んだまま立ち尽くしていた。
けれど、先ほどまでの光景が夢でなかったことは容易にわかる。
(俺はアルだけどジークだ。二人が混じり合った感覚がする、不思議だ。五百年前のことも全て思い出せるし、体に力が渦巻いているのも感じる。それになにより)
「うわぁ……なんだかすっごいジメジメしますね」
と、ジークの傍をパタパタ飛んでいるアイリスの存在だ。
そんな彼女は周囲を見回した後、ジークへと続けて言ってくる。
「それでそのユウナって人間はどこに居るんですか?」
「そうだ、そういえばユウナはどこに?」
おかしい。
ジークが《隷属の剣》を握る前までは、確実にこの傍に居たのだ。
と、ここでジークはエミールが言っていた言葉を思い出す。
それは――。
『俺様達はユウナで心行くまで遊んでやるから、貴様は雌の魔物と盛っているがいい!』
ゲスが考える『遊び』など、一つしかない。
そして、それを行う場所も相場は決まっている。
「多分、ユウナはこの先にあるキャンプだ。エミールはそこの外れに、自分専用の大きなテントを立てていた。居るとしたらそこしかない」
「え、まさかあれですか!? そのユウナって子、アレな目にあってる感じですか!? それは見過ごせませんよ、サキュバスとして!」
と、ものすごく嬉しそうなアイリス。
尻尾がふりふり動いているところから、『見過ごせない』の意味が気になるところだ。
「とにかく急ぐぞ。手遅れになったら洒落にならない!」
ジークは《隷属の剣》を引き抜き、今持っている剣の代わりに鞘へと納める。
そして、彼はアイリスを伴って走り出すのだった。
そうして走ること数分後。
ようやく見えてきたのは、豪華で巨大なエミールのテントだ。
ジークはすぐさまテントの入り口から、中へと入る。
「ユウナ!」
すると見えて来たのは、最悪一歩手前の光景だった。
すなわち――。
「あ、アル……くん」
と、涙交じりの声で言ってくるユウナ。
彼女はテントの奥で、身を守るように丸くなっている。
そして、その近くに立っているのは。
「なんだ、どうして貴様がここにいる!」
「呪いの剣に触って消えたんじゃなかったのか!?」
「めんどくせぇ奴だな。エミール様、いい加減殺しちゃいましょうぜ!」
エミールと、その取り巻き達だ。
ここまでくると、ジークは彼等に怒りすらわいてこない。
むしろ、悲しさを感じさえする。
「ユウナ、大丈夫か?」
「う、うん……で、でも、アルくん……早く、に、逃げて!」
と、そうとう怖かったに違いない――身体を震わせながら言ってくるユウナ。
ジークがもう少し早く来ていれば、彼女の恐怖を少し軽減できたに違いない。
「すまない、ユウナ」
「おい貴様! 俺様を無視してどういうつもりだ! 俺様が誰かわからないのか!? この俺様は魔王を倒した勇者の末裔――エミール・ザ・ブレイブ七世だぞ!」
ニヤニヤと言ってくるエミール。
ジークはそんな彼へと言う。
「エミール、俺のことが邪魔なんだよな? それなら構わない」
「はぁ? 何を言っているんだ貴様は!」
「今から決着をつけよう。俺のことが邪魔なら、戦いの中で殺せばいい」
「ほーう、それでお前が勝った時の見返りは?」
「俺が勝ったら、ユウナには二度と手を出さないでもらう」
「ぷっ、くははははははっ! いいだろう、おもしろい! その勝負乗った!」
「アルくん、ダメだよ! そんなの絶対にダメ! アルくんが死んじゃう!」
と、言ってくるのはユウナだ。
ジークは彼女に答えようとするが、その前にエミールが続けてくる。
「昔から貴様が気に食わなかったが、最後の最後でこうまで俺様を笑わせてくれるとは……どーれ、ついてこい。ここで戦うわけにはいかないからな――貴様の薄汚い血で、俺様のテントが汚れてしまう」
「ぎゃははははははははははははっ! その通りにちげぇねぇ!」
「まぁ、エミール様の魔法を受けたら、塵も残らねぇと思うがな!」
と、エミール達はジークに肩をぶつけながら、テントの外へと出て行く。
ジークがそれを冷ややかな目で見ていると。
くいくい。
くいくいくい。
と、引かれるジークの袖。
「魔王様ぁ~、なんだかあいつムカつきますね」
アイリスだ。
彼女はそのままジークへと、言葉を続けてくる。
「かなり強そうですけど、私が超頑張って殺しちゃいましょうか? それとも魔法で精神だけバブバブちゃんに戻してみます?」
彼女の後者の提案は心惹かれるものではある。
だが、今はジーク自身でケリを付けたいのだ。
故にジークはアイリスへと言う。
「アイリスはユウナの服を整えてあげてくれ。俺はエミールを倒してくる」
「え~! 私もみ~た~い~! 魔王様があのウザ男倒すところ見たい~!」
「頼むよ、アイリス。ユウナをこのまま一人にしてはいけな――」
「まって、アルくん!」
と、立ち上がり言ってくるのはユウナだ。
彼女はジークの方へやって来ると、言葉を続けてくる。
「あたしも行くよ! このアイリスって人?が誰だか気になったり、色々わからないことだらけだけど、あたしも行くよ! だって、あたしのせいでアルくんがこんな――」
「別に気にしなくていい。エミールと戦う理由は、ユウナの件以外にもあるからな」
「それでも、行かせて!」
むぅ~っと言った様子のユウナ。
案外頑固だ。
ジークがユウナを置いて行こうとしたのは、服装と彼女の心の問題からだ。
しかし、彼女の服装はすでに彼女自身で直し済み。
また、先ほどまでの不安そうな表情もしていない。
(これなら、俺がエミールを倒すところを傍で見せた方がよさそうだな。その方が、ユウナの気も晴れるかもしない)
と、ジークはそんなことを考える。
その後に、彼はユウナに言うのだった。
「わかった。でも、見ているだけで絶対に手は出さないように」
さて……これは毎回、言ってることなのですが
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