アハトのミニミニ冒険2
「…………」
もふもふ。
もふもふもふ。
「…………」
もふもふ。
もふもふもふ。
(ふむ……このパン、とても美味しいですね)
考えてみれば、パンを味わって食べたのなど、産まれて初めてかもしれない。
というか、味わって食べた食事自体はじめてだ。
なんせ、アハトはこれまでミハエルの下で、気の休まらない日々を過ごしていたのだから。
(改めて思いますが、本当にジークは感謝してもしきれませんね)
闇に沈んでいたアルスの街に突如現れ。
瞬く間にその闇を払い、平和と光を取り戻してくれた。
まるで、伝説の勇者ミア・シルヴァリアの様に。
なんて。
アハトがそんな事を考えたのを、ジークは知ればいったいどう思うのか。
(ジークの性格からして、真っ先に否定してくるでしょうね。その後はミアの自慢話に繋がる感じでしょうか……子供みたいに瞳を輝かせて)
などなど。
アハトがそんな事を考えながら、パンを食べ終えた。
まさにその時。
「お、おい大丈夫か!?」
「どうしたんだその傷は!!」
「ほら、下がった下がった! そんな事より、今は手当だ! そこの人、この人の足を持って中に運び入れてくれ!」
と、なにやら病院の前が騒がしい。
事件の気配がする。
アハトは立ち上がり、病院の方へと歩いて行く。
そして、彼女は付近に居た人へと話しかける。
「何かあったのですか?」
「近くの森に、錬金術の素材を取りに行った奴らが、変な魔物に襲われたらしいんだよ」
「変な魔物?」
「あぁ、色々な魔物や生物がくっついた怪物みたいな姿だったそうだ」
「……っ」
アハトはその特徴に覚えがある。
キメラだ。
(ミハエルのキメラが生き延びていた? もしくは、ミハエルが失敗作を森に投棄していた……といったところでしょうか?)
いずれにしろ、見逃していい話ではない。
故にアハトは彼へと言う。
「申し訳ありませんが、その森の場所と怪物が出た詳細な位置について聞きたいのですが」
「あぁ、それなら襲われた奴の連れに聞いてみてくれ。怪物を直接見てはいないが、襲われた奴の傍にいたみたいだからな」
「わかりました、ありがとうございます。それで、その方はどちらにいるのですか?」
「あいつだ。病院の入り口で、うろうろしている奴」
「なるほど……」
アハトは病院の入り口へ目を移す。
するとそこに居たのは、なにやら落ち着かない様子の男。
きっと、怪我した仲間が心配なのだろう。
(彼には申し訳ないですが――情報源が彼しかない以上、話を聞くしかありませんね)
などなど。
アハトはそんな事を考えた後、男の下へと歩いて行くのだった。




