ジークは巻き込まれてみる8
「アイリス……おまえ、これはいったいどういうことですか?」
と、ジトっとした様子の表情で、アイリスを見つめているアハト。
どう見ても、お怒りモードだ。
彼女はそのままの様子で、アイリスへとさらに言葉を続ける。
「もうだいたい想像できますが……念のため聞いておきます。おまえが攫ったユウナは、今どうしているのですか?」
「あ、あは♪ ユウナは少し離れた場所にある木に縛ってありますよ! ……というより、ユウナの周りに縄をゆるく巻いている感じですけど」
「どうして、わたしがおまえの言う事を聞かなければ、ユウナが危ない目に遭うなんて嘘をついたのですか?」
「アハトと仲良くなりたかったんですよ!」
「…………」
「ほ、本当ですよ! どうして、そんな疑わしい目を向けるんですか!
「はぁ……」
と、呆れた様子で剣を治めるアハト。
アイリスはそれを見て、アハトの話が終ったと判断したに違いない。
彼女はジークへと言ってくる。
「ちょっと魔王様! 近くに居るんですよね!? 自由にしてくださいよ! サキュバスとは自由を求める種族! 動けないとストレスでムラムラしてくるんですよ!」
初耳だ。
もっとも、ジークはアイリスを自由にするつもりはない。
仮にアイリスの妄言が本当だったとしてもだ。
なぜならば。
さきほども言ったように、そろそろアイリスには罰が必要だと考えているからだ。
そこで、ジークは精神操作魔法を使用。
彼はアハトの脳へテレパシーを飛ばす。
『アハト、聞こえるか?』
『これは……ジークの声?』
『あぁ、少し離れたところから、直接お前の脳に話しかけている』
『まずいですね。ジークは強いだけでなく、男としての魅力も持っている』
『……なに?』
『しかも、ジークが時折見せる――優し気なルックスとは大違いな、魔王然とした自信に満ち溢れた傍若無人な態度』
『おい、さっきからいったい――』
『そんなジークに無理矢理されたり、耳元で愛をささやかれたりする妄想は、夜だけにしようと自制していたのですが。まさかこんな日中にジークの声を聞いてしまうほどとは……もっと自制しないといけませんね』
まさかこれは。
アハトの奴、ジークのテレパシーを幻聴だと思っているに違いない。
だから彼女は、さきほどから恥ずかしい独白をしているのだ。
これはまずい。
このまま続けさせると、アハトの精神に甚大な被害が出てしまう。
故にジークは彼女へと言う。
『アハト、よく聞け。俺だ――本物のジークだ』
『えぇ、わかっていますよジーク。わたしはおまえの事が大好きです。命を助けられた事もそうですが、おまえほど優しい男にわたしは――』
『いいかよくきけ。俺は今、精神操作魔法を使っておまえの脳に直接話しかけているんだ。おまえの妄想の類じゃない』
『おかしいですね、今日の妄想ジークはよく――』
『反論してくるって言いたいのか? あたりまえだ、妄想じゃないからな。アイリスがお前にしようとしていた事と、その真意について話したいんだ』
『……まさか、ジーク?』
『さっきからそう言ってるだろ。それで話を戻すが――俺から罰を与えると、アイリスにとってはご褒美になるから、お前から罰を……っ』
『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!』
と、ジークの脳内に響き渡るのは、アハトの錯乱ボイス。
きっと、アハトは気がついたに違いない――自分がジークに恥ずかしい独白をしていた事に。
なんにせよ。
このままでは話がすすまない。
ジークはとにかく、アハトを落ち着けるために声をかけるのだった。
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