ジークは巻き込まれてみる7
「あは♪ そんな不思議そうな顔をしなくても結構です! これから私が、アハトに『くっ殺』を教えてあげますから♪」
「そうですか……ならば」
と、聞こえてくるアイリスとアハトの声。
片やへらへらし、片やキリッと剣を抜いているのが、なんともアンバランスだ。
「じ、ジークくん! このまま二人を戦わせちゃっていいの?」
と、そんな事を言ってくるユウナ。
ジークはそんな彼女へと言う。
「もちろん、戦わせる気はない」
「だったら――」
「ただ、アイリスにはそろそろ罰を与えないとな。さもないと、あいつは事あるごとにアハトにイタズラするだろうからな」
「あたしの時は何もされなかったし、ジークくんの考えすぎってことは?」
「おそらく、ユウナにはくっ殺成分が足りなかったんだろう」
「く、くっ殺?」
ひょこりと首をかしげているユウナ。
きっと、彼女は意味不明な事を言いだしたジークに対し、混乱しているに違いない。
故にジークはそんな彼女へと言う。
「要するに、ユウナは騎士じゃないから、ギリギリでセーフだったんだ」
「…………」
「もっとも、アイリスはそれでも最初の方は、ユウナを少し狙っていたけどな」
「…………」
「…………」
おかしい。
なんだか、ユウナがなんとも言えない表情をしている。
はたして、これがジークに対する感情なのか。
はたまた、アイリスに対する感情なのか。
(恐ろしくて考えたくない……)
などなど。
ジークがそんな事を考えた。
まさにその瞬間。
「っ……こ、これは!?」
と、聞こえてくるアハトの声。
見れば、彼女がアイリスに即負けしていた。
仕方のない事だ。
アハトは特殊なホムンクルス故、魔力を持っていない。
そのせいもあり、魔法に対する抵抗力がないに等しいのだ。
(精神操作魔法を使いこなすアイリスは、アハトにとって最悪の相手だろうからな)
アハトの様子を見るに。
大方アイリスは、彼女に身体の自由が効かなくなる魔法をかけたに違いない。
と、ジークが考えていると。
「あは♪ 強そうなオーラを出してたくせに、瞬殺じゃないですか!」
聞こえてくるアイリスの声。
彼女はアハトに近づきながら、さらに言葉を続ける。
「どうですか? 悔しいですか? 戦う前にやられるのって、どんな気分ですか? あっは~~っ♪♪」
「この程度で……っ」
「そうそう! その顔ですよ! 私はそういうのが大好きなんですよ! さてさて、それでは楽しませてもらいますよ♪」
と、ご機嫌な様子のアイリス。
彼女は悪魔尻尾をふりふり、アハトの頬をなでなでしている。
そして。
一方のアハトは、キッとした視線をアイリスに向け言う。
「わたしは絶対に屈しません! ユウナのために、わたしは絶対におまえに勝つ!」
「はぅんっ」
「?」
「す、すっごいゾクってしました。いいですよ、最高ですよ♪」
「わたしを侮辱しているのですか?」
「失敬な! 褒めているんですよ! なので、どうかこの後もその威勢を保って下さいね!」
言って、アイリスはアハトの方へと手を伸ばす。
いよいよこれから、けしからん事をしようとしているに違いない。
だがしかし。
「あ、あれ? か、身体が――動かない!?」
と、戸惑った様子のアイリス。
理由は簡単。
ジークが遠距離から、アイリスに強力な精神操作魔法をかけたのだ。
けれど、さすはアイリス。
「これは……魔王様の魔力!? なるほど、わたしの邪魔をする気ですね! ですが甘いですよ――私は私の全力を持って、抗って見せる!」
と、わずかだが体を動かし始めるアイリス。
精神操作魔法のエキスパートだけある。
(このまま、俺がもう少し魔力を強めれば、さすがのアイリスも完全に動けなくなるだろう)
だが、そんな面倒な事はしない。
ジークは近くに落ちていた小石を手に取る。
そして、彼はそれをアイリスの仮面めがけて軽く弾く。
すると――。
ビシッ。
と、小石は狙いに直撃。
同時、アイリスの仮面が吹っ飛び。
「あ」
と、やばそうな表情をするアイリスの素顔がこんにちは。
そして、それを見たアハトはというと。
「アイリス……おまえ、これはいったいどういうことですか?」




