ジークは巻き込まれてみる6
ジークがユウナを連れ、仮面の悪魔――アイリスの魔力を辿ること数分後。
現在、彼等は無事アイリスのもとまで到着していた。
「ジークくん、どうして木の陰に隠れてアイリスさんを見ているだけなの?」
と、聞こえてくるのは隣にいるユウナの声。
ジークはそんな彼女へと言う。
「百聞は一見に如かずって言っただろ? ここに隠れて、アイリスがアハトに何をしようとしてるか教えてやる」
「?」
「まぁ見てろ――ほら、言っている間にアハトが来たぞ」
と、ジークのそんな言葉と同時現れたのはアハトだ。
彼女は全く油断した様子なく、アイリスの前まで歩いて行く。
そして――。
「仮面の悪魔……約束通り一人で来ました。ユウナは無事ですか?」
と、険しい表情でそんな事を言うアハト。
アハトとアイリスの距離は、決して遠くはない。
さらに余談だが――アイリスは仮面を付けている以外、いつもと変わらない服装だ。
(どうして、仮面の悪魔の正体がアイリスだと気がつかないんだ、アハトの奴……)
ひょっとすると、ジークの予想以上にアハトはポン……ピュアなのかもしれない。
まぁ、ピュアなのは美徳だし、今はよしとしよう。
などなど。
ジークがそんな事を考えている間にも。
「あは♪ ユウナは無事ですよ!」
と、聞こえてくる仮面の悪魔こと、アイリスの声。
彼女はご機嫌な様子でアハトへと言う。
「もっとも、これからも無事かどうかは、アハトの出方しだいですけど!」
「なるほど……それで、おまえはわたしに何をさせたいのですか?」
「もう♪ アハトってば、理解が早くてストレスがないですね!」
「早く条件を言いなさい」
「くっ殺ですよ♪」
「……は?」
と、アハトが呆然とした表情をうかべた。
その時。
くいくい。
くいくいくい。
「ジークくん。えっと、なにこれ?」
と、聞こえてくるユウナの声。
ジークはそんな彼女へと言う。
「要するにこれは……」
「こ、これは……?」
「茶番だ」
「…………」
「まぁ見ておけ。アイリスの性格からして、そろそろ本題に入るぞ」
と、ジークがそう言った。
まさにその瞬間。
「ユウナを返す条件は、アハトにくっ殺してもらうことです♪」
と、聞こえてくるアイリスの声。
彼女は悪魔尻尾をふりふり、アハトへと言葉を続ける。
「アハトには『くっ殺』という概念がわからないでしょうけど……大丈夫です、これから私が教えてあげますよ!」
「意味がわかりませんね。つまりおまえは、わたしに何をしてほしいのですか?」
「全力で戦うだけで結構ですよ♪」
「…………」
「あは♪ そんな不思議そうな顔をしなくても結構です! これから私が、アハトに『くっ殺』を教えてあげますから♪」
「そうですか……ならば」
そうして。
アハトは剣を引き抜くのだった。




