ジークは巻き込まれてみる3
「ジーク! 何をのんびりしているのですが! 早くしないと、ユウナとブランが危険です!」
と、言ってくるアハト。
ジークはそんな彼女に手を引かれ、部屋を出る。
アイリス……仮面の悪魔が残した手紙には、『どこに来い』と書かれていなかった。
はたして、アハトはどこに向かおうとしているのか。
(アハトのやつ、やっぱり猪思考というか……少し抜けてるんだよな)
もっとも、正義心が強い故だろう。
きっとアハトは、ユウナが心配で居ても立ってもいられないに違いない。
などなど。
ジークがそんな事を考えている間にも、やってきました宿屋のロビー。
受付カウンターと、休憩用の椅子があるそのエリア。
だがしかし、今は一つだけ変わったものある。
それは――。
「ブラン!」
と、心配した様子で椅子へと走っていくアハト。
それもそのはず。
椅子にはブランが縛り付けられていたのだ。
それも猿轡を噛まされて。
とはいえ。
(当のブランがまったく慌ててないんだよな……まるでアイリスと打ち合わせして、演技でもしているかのような)
大方、アイリスに協力してくれと頼まれたに違いない。
それもおそらく――ユウナ経由で頼まれたのだ。
でなければ、ブランがアイリスのイタズラに協力するはずがない。
(となると、気になって来るのはユウナか)
どうしてユウナは、アイリスに協力しているのか。
彼女の性格からして、アイリスのイタズラに協力するとは思えない。
「…………」
ユウナは騙されている可能性が高い。
目に浮かぶ――。
『お願いしますよ、ユウナ! アハトと仲良くなりたいんですよ! これはそのためのイタズラ――もとい、レクリエーションなんですよ♪』
うるうる困り顔で、ユウナへと頼み込むアイリスが。
まぁ、ユウナならば確実に騙されるに違いない。
とりあえずここは――。
「大丈夫ですかブラン!? 何か酷い事はされていませんか!?」
と、ジークの思考を断ち切る様に聞こえてくるアハトの声。
当のブランはジトっとした様子で、そんなアハトへと言う。
「ん……大丈夫」
「おまえにこんな事をしたのは、仮面の悪魔で間違いありませんか?」
「間違いない。ブランの不覚で、ユウナを連れていかれた……しかも、ブランは協力できない」
「指定の場所には、わたし一人で行かなければならない……だからですね?」
「ん……そう。じゃないと、ユウナが大変な事になる。ブランはユウナを危険に晒せない……ブランはユウナの守護竜だから、ユウナを人質に取られたら無力」
と、まるで焦った様子もなく。
事前に用意していた台本を読むかのように、淡々とおっしゃるブランさん。
安定の無感情、無表情で見ていて安心するレベルだ。
「ところで、おまえに聞きたい事があるのですが、仮面の悪魔はおまえに何か言っていましたか? 実はその『指定の場所』とやらが、手紙から抜けているのです」
言って、ぺらっとブランに手紙を見せるアハト。
ブランはそんな彼女へと言う。
「え……指定の場所、アイリスは伝えてない?」
「アイリス? どうしてアイリスが出てくるのですか? そういえば、アイリスの姿も――」
「あ、ぅ……そ、そうじゃない……違う」
「ブラン? まさか、何か知っているのですか!?」
「し、知らない……ブランは、ブランは――っ」
「脅されている、のですか?」
「……っ」
珍しくもブランさん。
激しく瞳を動かし、嫌な汗を額から流している。
相当テンパっているに違いない。
無論、ブランは脅されているわけではない。
アイリスのミスから連鎖的に、ブランもうっかりミスをしてしまった。
その動揺と、そのケアをどうすればよいかの混乱。
それらによって、ブランは――。
「ぶ、ブランはブランは……その……ま、まおう様……まおう様が全部知ってる」
と、そんな事を言ってしまったに違いない。
結果。
「ブランが脅されている理由を、ジークが知っている? それはいったい――どういうことですか、ジーク?」
と、ジークへと真剣な視線を向けてくるアハト。
なんだか、とても面倒くさい事になってきた。




