第二章 底辺冒険者は最強の魔王になる4
「ふぅ♪」
気が付くと目の前にあるのはアイリスの顔。
そして――。
「寝てる間にちょびっと吸いましたけど――魔王様ってやっぱり美味しいですね!」
と、言ってくるのは笑顔のアイリスだ。
ジークはそんな彼女へ、すっきりとした頭で言う。
「五百年ぶりだな、アイリス。俺の記憶と力を守っていてくれて礼を言う、おかげで何もかも思い出した……俺はアルであってアルじゃない」
「えぇ、その通りです。あなた様の名は――」
「ジーク――五百年の眠りから目覚めた魔王」
言って、ジークは立ち上がる。
立ち上がった拍子に、アイリスがずり落ちたが、それはもはやご愛敬だ。
(なにもかも思い出した。そして、覚えている――ユウナのことも、この世界の勇者のことも全て……っ)
「ま、魔王様!? どうしたんですか、胸を抑えて……まさか副作用? 人間の身体では、やはり器として脆弱すぎて……ど、どうしましょう!? 私はどうすれば!」
と、何やらテンパり始めるアイリス。
ジークはそんな彼女へと言う。
「いや違う。アイリス、これは別の痛みだ……体が人間のせいか、心も昔と違うみたいだ」
「心、ですか? っていうか魔王様、ひょっとして泣いて――」
「いや、俺はただ……」
ジークは今の勇者の在り方に、ただ失望しただけだ。
けれど、今はそれに衝撃を受けている場合ではない。
「アイリス、早々にここから出るぞ。外に居るユウナが危ない」
「っていうか、そのユウナって誰ですか!?」
わーわーきゃーきゃーと言った様子で、騒ぎまくっているアイリス。
ジークはそんな彼女へとストレートに言う。
「ユウナは俺の大切な女性だ」
「え」
「ずっと冒険者として、お互い支えあってきた。だから、今外で窮地に陥っているかもしれない彼女を、見過ごすわけにはいかない」
「あ、なんだ。そういう意味の大切ですか。いや~勘違いしましたよ!」
と、尻尾をふりふり、羽をパタパタしているアイリス。
彼女はそのままジークへと、言葉を続けてくる。
「別にいいじゃないですか、人間なんて! あいつらは私達魔物に飼育される価値くらいしかないですよ! 五百年前の復讐でどうせ殺すかもですし、無視しましょうよ、無視!」
「アイリス……」
「あ、そうだ! そのユウナとかいう人間、もし魔王様のお気に入りなら、魔法で洗脳漬けにして――」
「アイリス!」
「わっ!? なんですか魔王様!? まさか苗床系の方がよかったですか?」
アイリスは昔から人間があまり好きではなかった覚えがある。
ジークが純粋な魔王だった頃は、別にたいしたことではないと考えていた。
けれど、人間と魔王の記憶と心を持つ今では、そういう訳にはいかない。
故にジークはアイリスへと言う。
「ハッキリさせておくが、人間を皆殺しにしようって気はない」
「あぁ、そういえば昔も言ってましたね。人間は殺すより、ちゃんと統治して労働力にした方がいい……でしたっけ?」
「そういうことでもないが……まぁ、今はそれでいい。そして、俺は今からユウナを絶対に助けに行く」
「え~、どうしてもですか?」
「どうしてもだ。お前は俺について来るのが嫌か?」
「あはは! 冗談やめてくださいよ! 私はいつだって魔王様と一緒ですよ! とまぁ、それじゃあ行きましょうか……五百年前の約束通り」
「あぁ。二人一緒に、この世界を楽しむために」
直後。
ジークの視界は光に包まれるのだった。
さて……これは毎回、言ってることなのですが
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