ジークは巻き込まれてみる2
「仮面をつけた女悪魔に、ユウナが――っ!」
と、慌てた様子で言ってくるアハト。
確かにユウナが攫われたという事のみならば、一大事だ。
しかし、慌てる必要はない。
(仮面をつけた悪魔って、確実にアイリスだよな)
ジークがそう判断した理由はいくつかある。
その中でももっとも大きいのは――。
ユウナの傍には、アイリスとブラン、そしてアハトが居た事だ。
あの三人を掻い潜り。
なおかつ、ジークに気取られる事無くユウナを攫う事など不可能だ。
現代勇者はもちろん、ミアであっても――。
(いや、ミアならやれるかもな……)
まぁそれはいい。
とにかく、現代人には不可能だ。
(となると、アハトを離席させている間に、アイリスがユウナとブランを唆した……っていうのが現実的だよな)
などなど。
ジークがそんな事を考えていると。
「み、見てくださいジーク! これは仮面の悪魔が残していったものです!」
と、一枚の紙きれを渡してくるアハト。
ジークはその紙を手に取り、それへと目を通す。
すると、そこに書かれていたのは。
『ユウナは預かりましたよ♪ ユウナをエッ! な目に合わされたくなければ、一人で指定の場所までくることですね!』
なるほど。
文面からアイリスから溢れだしている。
さらに。
(指定の場所が書いてないんだが……)
アイリスは真面目モードの時はミスらないが、こういう時にはすぐミスる。
まぁそこが、アイリスの可愛いところでもあるのだが。
「でだ、よく俺に伝えてくれたな。『一人で』って書いてあるから、お前の性格からして突っ込みそうなものだが」
「おまえ、わたしをバカにしているのですか?」
と、ジトっとジークを睨んで来るアハト。
彼女はそのままの様子で、ジークへと言葉を続けてくる。
「もし言われた通りに一人で行って、わたしが失敗してしまったら……ユウナは攫われたままです。それならば、おまえに伝えてから一人で言った方が、確実性があります」
「さすがアハトだな。いい判断だ……ところで、ブランはどうした?」
「ブランは――っ! ブランも部屋に居ません! まさか、ブランも仮面の悪魔に!」
「い――」
「ジーク、早く助けに行きましょう!」
「ちょ――」
「どういう作戦で行きますか? わたしが一人で来ていると見せかけ、おまえが相手の隙を突いて二人を救出……などが無難だと思いますが」
「あ――」
「ジーク! さぁ、早く立ち上がってください! 悪を討つときです!」
「お、おう!」
しまった。
乗せられて勢いよく、アハトの手を握ってしまった。
なんだか、アハトがここまでやる気を出していると、真相を教えるのが申し訳なくなってくる。
というか。
そもそも、今回の件――その原因はジークがアイリスを止めきれなかった事にある。
(仕方ない、上手い事アハトをフォローしつつ、アイリスの筋書きにそって、ユウナを助けにいくとするか)
アイリスへの文句とお仕置きはその後だ。
ジークはそんな事を――。
「ジーク! 何をのんびりしているのですが! 早くしないと、ユウナとブランが危険です!」
と、ジークの思考を断ち切るように聞こえてくるアハトの声。
ジークはそんな彼女に手を引かれ、部屋から出て行くのだった。




