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ジークは巻き込まれてみる

 時はミハエルの一件から少し後。

 場所はアルスの宿屋、その一室。


「ちょっと魔王様ってば! 無視しないでくださいよ!」


 と、至近距離から聞こえてくるのはアイリスの声だ。

 彼女はジークの隣に座りながら、さらにジークへと言葉を続けてくる。


「少しだけ! ほんのさきっちょだけでいいんで、お願いしますよ!」


「ダメだ」


「え~~! なんでですか!?」


「はぁ……」


 仕方ない。

 どうやら、もう一度説明する必要があるに違いない。

 考えた後、ジークはアイリスへと言う。


「前も言っただろ。アハトにちょっかいかけるのは無しだ。仲間なんだから、仲よくやっていけ」


「仲良くしてますよ、すでに! 今朝なんて、一緒のベッドで寝たんですよ?」


「お前な……あれ、アハトの奴が死ぬほど驚いてたぞ」


「あは♪ 女子会ってやつですよ!」


「朝、相手の上に覆いかぶさって、呼吸を荒げてるのを女子会って言うのか?」


 と、ここでジークはとある事に気がつく。

 それは話が上手い具合に逸らされていることだ。


 アイリスはこの調子で話を逸らしたところで、最後の最後にノリでジークから許可をもらう気に違いない。

 だがしかし、ジークはその手にはのらない。


「さっきの話だが、どうしてアハトにちょっかいかけたいんだ?」


「別にエッ! な事をしようとは思ってませんよ――少ししか!」


「お前の場合、その少しが大問題なんだけどな……」


「ただただ、アハトってばほら! 虐めたくなる顔をしているじゃないですか! ミアにそっくりですし!」


「だから、何度も言っているがあいつとミアは――」


「違うのはわかってますってば!」


 と、尻尾をふりふりアイリス。

 彼女は瞳をキラキラさせながら、ジークへとさらに言葉を続けてくる。


「でもほら、アハトってば……いい声で鳴いてくれそうじゃないですか!」


「…………」


「そ、そんな目で見ないでくださいよ!」


「…………」


「うぅ……魔王様のバカ! わからずや! もういいですよ! アイリスはサキュバスの欲求を我慢して過ごしますよ……よよよっ」


 言って、悪魔羽をぱたぱた部屋から出て行くアイリス。

 少し可哀想な気もしないでもない。

 けれど、新たな仲間であるアハトに、初っ端からトラウマ植え付けるわけにはいかない。


 なんにせよ。

 これで間違いは起きないに違いない。

 ジークはそんな事を考えた後、読書を再開するのだった。


 …………。

 ………………。

 ……………………。


 そうして時はさらに少し後。

 時刻は昼少し前。


「ジーク、大変です!」


 と、ジークの部屋に駆け込んできたのはアハトだ。

 彼女は慌てた様子で、ジークへと言ってくる。


「ゆ、ユウナが攫われました!」


「なに!?」


「仮面をつけた女悪魔に、ユウナが――っ!」


「…………」


 なるほど。

 どうやらアイリスのやつ、何一つわかってなかったようだ。

 ジークはため息一つついたのち、ゆっくり立ち上がるのだった。


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