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エピローグ ホムンクルスは本物になりたい

 時は祝勝会から、数十分後。

 場所はアルスの酒場二階の宿屋――ベッドと机のみが置かれ、質素ながらも掃除の行き届いた清潔な一室。


 現在そこで、ジークはミハエルの城で見つけた『勇者に関する研究資料』を読んでいた。

 その中に、本当に勇者の試練の情報があったのは、幸先がいいに違いない。


「なるほど。最初の『勇者の試練』は、ここからかなり離れた位置だな」


 けれど、これはさして問題ではない。

 白竜となったブランの背に乗れば、そこまで時間をかけることなく行ける距離だ。


 問題はそれがある場所だ。

 ジークの記憶が正しければ、そこは――。


「ジーク、起きていますか?」


 と、ジークの思考を断ち切る様に、扉の向こうから聞こえてくるアハトの声。

 ジークは資料を横に置いた後、そんな彼女へと言う。


「あぁ、起きてるよ。何か用か?」


「はい。実はその……おまえに話したいことがあって」


「それなら、開いてるから入ってきていいぞ」


「あ……失礼、します」


 かちゃり。

 と、扉を開きジークの部屋へと入ってくるアハト。


 彼女はとことこ、ジークの前へと歩いて来る。

 彼女はジークの前で一旦立ち止まる……やがて。


「っ」


 と、なにやら思い切った様子で、ベッド――ジークの隣へと座って来る。

 そこから続く沈黙。


 …………。

 ………………。

 ……………………。


(え、なにこの空気?)


 魔王であるジークにはわかる。

 まるで大戦前の様に、部屋の空気がひりひりしているのだ。

 そして当然。その中心に居るのはアハト。


(まさか、アハトを怒らせるような事をしたか?)


 心当たりは……ある。

 それはミハエルと戦った際、ジークが彼に言った言葉だ。


『お前の作品は総じて感度が低いみたいだな――何しても反応が遅れてくる』


 あの時、アハトから猛烈な寒気を感じたのだ。

 もちろん、悪気はなかった。

 けれど、よく考えてみれば、先の言葉にはアハトへの侮辱とも取られかねない。


 まずい。


早急に謝らなければ。

 などなど、ジークがそんな事を考えていると。


「ジーク。ミハエルを倒してくれて――この街を、わたしを救ってくれてありがとうございました」


 と、言ってくるアハト。

 彼女はきゅっと手を握りしめ、そのままジークへと言葉を続けてくる。


「この街に来てくれたのが、おまえで本当によかったです」


「……怒ってたんじゃないのか?」


「怒る?」


 ひょこりと、首をかしげてくるアハト。

 なるほど。


どうやら、全てはジークの勘違いだったようだ。

 それならば、するべきことは簡単だ。

 と、ジークはアハトへと言葉を返す。


「悪い、気にしないでくれ。それで、礼についてだけど――別に気にしなくていいよ」


「ミハエルを倒したのは、私情だから……ですか?」


「そういうことだ」


「おまえがそう言うのなら、これ以上は言いません。けれど最後にもう一度――ありがとうございます、ジーク」


 言って、ニコリと可愛らしい笑顔を浮かべてくるアハト。

 なんだか、猛烈に照れくさい。

 ジークは思わず、そっぽを向いてしまうのだが。


「変な所で照れ屋ですね、おまえは」


 と、まるでジークの心を見透かしたかのような、アハトの発言。

 ユウナといい、アハトといい――どうして、こうもジークの心が読めるのか。

 ここでジーク、とんでもない事に気がついてしまう。


(ま、まさか俺の心は読まれやすいのか!?)


 だとすれば大問題だ。

 それすなわち、ミアとの戦闘中も心が読まれていたということだ。


(なんとかしないとまずい! このままだと、いつか来る『ユウナとの決戦』の際――再び俺が負けることになってしまう!)


 それはダメだ。

 ジークは魔王。


真の勇者に二連敗するわけにはいかない。

 だいいち、そんな事になってはアイリスやブランにも、面目が――。


「ジーク、何を唸っているのですか?」


 と、ジークの思考を断ち切るように聞こえてくるのは、アハトの声だ。

 ジークはそんな彼女へと言う。


「あ、あぁ……すまない。ちょっと真の勇者について考えていた」


「ミアについて、ですか?」


「考えていたのは、ミアだけじゃないが……まぁ、だいたいそんなところだ」


「ジーク。よければ、おまえの口からミアについて教えてくれませんか?」


「ミアについて? 別にいいけど、どんな事についてだ?」


「どんな性格だったのか。どんな戦い方をするのか……どれほどの人間を守ってきたのか。どんなに小さい事でも、くだらない事でも構いません――教えてはもらえませんか?」


「別にそれくらいなら、いくらでもするが」


 言って。

ジークはアハトへと語っていく。


 ジークの支配下の街を、解放しに来たミアとの戦い。

 アイリスがミアの仲間を人質に取ったとき、彼女が取った行動。

 アイリスの罠だとわかっているのに、住民を救いに来たミア。

 ミアはたった一人の部下を救うため、ジークの城に乗りこんで来たことがあったこと。

 アイリスに操られた仲間と殺し合いをさせられた際、ミアは最後まで手を出さな――。


(ん…あれ?)


 おかしい。

なんだか、アイリスがかなり悪い事ばかりしている気がする。

 まぁ、ジークも人間の街を支配していた時点で、アイリスとは大差ないに違いない。


(それに今の俺が『悪い事』と思えるのは、アルと混じった影響もあるだろうしな)


 要するに、当時はそれが普通だったのだ。

 とまぁ、ジークは更にミアの話をアハトへと続けていく。

 重要なことから、どうでもいい事まで全て。


 …………。

 ………………。

 ……………………


 そうして。

それら全てを話し終えた頃。


「そうですか、やはりすごい人なのですね……ミア・シルヴァリアは」


 と、言ってくるアハト。

 彼女はどこか自嘲した様子で、ジークへと言葉を続けてくる。


「わたしなんかとは、何もかもが違う。ハッキリわかりました……わたしはミアじゃない。ミアには一生なれない。どこまでいってもわたしはホムンクルスで、ミアの偽物――」


「それは違う」


「え?」


「なんでいきなり、ミアの話を聞きたいのかと思えば……はぁ、そんなくだらない事を気にしてたのか」


「なっ!? くだらないとはなんですか! お、おまえはまたしても、わたしを侮辱するのですか!」


 シャー!と、猫の様に怒り出すアハト。

 ジークはそんな彼女の頭に手を置き、そのまま言葉を続ける。


「『ミアのホムンクルスだから偽物』もなにもないだろ。アハトはアハトという魂を持った、本人なんだから」


「は、い?」


「お前は外見が同じだけで、性格も何もかもミアと違う。だったらそれは、『偽物のミア』というよりは、『本物のアハト』って言うんじゃないか――まぁ言い方おかしいが」


「本物……わたし、が?」


「あたりまえだろ。そもそも、誰かの偽物なんて存在しないんだよ。一人一人が、それぞれ固有の人格を持った人間なんだから」


「…………」


「『ミア本人になる』なんてアホみたいな目標より、もっとまともな目標を考えろ。まぁ、目標なんてすぐに決めなくてもいいけどな――よく考えて決めろ、アハトという人間がしたい事を基準にな」


 言って。

ジークはミアの頭をなでなでし続ける。


 よしよし。

よしよしよし。


 しばらく、アハトはされるがまま状態……だがしかし。

 バッと、ジークの手を払いのけてくるアハト。

 彼女は真剣な様子でジークを見つめてくると、そのまま言葉を続けてくる。


「ジーク。わたしの目標が決まりました」


「早いな……まさかまた『ミア本人になる』なんて、言いださないよな?」


「わたしの将来の目標は、おまえとずっと一緒にいることです」


「……は?」


 ちょっと何を言っているかわからない。

 いったい、どうしてさっきの話からそうなるのか。

 と、考えている間にもアハトはジークへと言葉を続けてくる。


「なので、当面はおまえと旅をしたいです。そして、今の様な仮の仲間じゃない――おまえの本物の仲間になりたい。わたしを救ってくれたジークと共に、将来を歩んでいきたい」


「…………」


「だからどうか、わたしに《隷属の証》を刻んではくれませんか?」


「えっと、よくわからないが。別にそれを刻まなくても――というか、なんで《隷属の証》を知っているんだ!?」


「さきほど、ユウナに聞きました」


「…………」


 きっと、ジークが酒場を去った後に違ないない。

 ともあれだ。


「改めて言うが、それを刻まなくても一緒に旅なんていくらでも――」


「おまえは鈍いですね。わたしは……こう言っているんです」


 と、ジークの言葉を断ち切って来るアハトの声。

 そして、アハトはイタズラっぽい様子で、ジークへと続けてくるのだった。


「何度も救われ、優しい言葉をかけられ……おまえに心を奪われてしまいました。ジーク、おまえの事が大好きです――どうか、この身体もおまえのものにしてくれませんか?」


面白かったら、この部分より更に下(広告の下あたり)から、マックス星5までの評価や感想できますので、してくれると参考になります。


また、続きを読みたいと思ったら、ブクマしてくれると励みになります。


ブクマとポイントはどちらも、作者が連載する活力になっています。

冗談抜きで、執筆するモチベーションに関わって来るレベルです。

すでにしてくれた方、本当にありがとうございます。


あと……。

五月一日発売の『常勝魔王のやりなおし』2巻を予約してくれたりすると、ものすごく嬉しかったりします。

そしてこちらも、すでに予約してくれた読者様はありがとうございます!

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