第七章 祝勝会
時はミハエルを倒した後、夜。
場所はアルスの街のとある酒場。
現在――ジーク、ユウナ、アイリス、そしてアハトは同じテーブルを囲んでいる。
「はいはい、注目!」
と、悪魔尻尾を振り乱すのはアイリスだ。
彼女はそのまま悪魔尻尾をふりふり、言葉を続けてくる。
「それじゃあ、場も温まってきたことですし――魔王様談義を始めましょう!」
この様子とタイミング的に、彼女はきっとまたも褒め褒め攻撃をしてくるに違いない。
などなど、ジークが考えている間にも。
「やっぱり、一番凄かったのは上位闇魔法 《グラビティ・オーメン》ですよ♪」
と、言ってくるアイリス。
彼女は両手を合わせ、まるで祈るような様子で、ジークへと言葉を続けてくる。
「本来の上位闇魔法 《グラビティ・オーメン》は、黒い月を中心に四方八方に斥力を振りまく魔法です! なので、真下にいたミハエルは重力に押しつぶされるように、地面に這いつくばった……」
「あぁ、それのどこがすごいんだ?」
「いや、普通に――《グラビティ・オーメン》の黒い月が、斥力を振りまく範囲ですよ! 四方八方じゃなくて、魔王様のは下方向だけになってたじゃないですか!」
それは当然だ。
上位闇魔法である《グラビティ・オーメン》を、あの場で完全開放すればどうなるか。
簡単だ――アルスの街とその周辺は消え去る。
それどころか、街があった場所にはきっと、地面を深く抉る巨大なクレーターが出来る。
だから、ジークはコントロールしたのだ。
放たれる斥力の向きを、全て真下に行くよう。
と、ジークがそんな事をアイリスに説明すると。
「あの規模の魔法に、指向性を持たせるなんて――普通そんな事できませんからね!?」
テーブルをバンバン叩いて来るアイリス。
彼女は興奮した様子で、ジークへと言葉を続けて来る。
「た・と・え・ば! 太陽の光をこの星の一点にしか、降り注がないようにする――と、魔王様が言っているのはそんなレベルの事ですよ!? どうですか、普通できますか!?」
「それくらいならできるぞ。闇魔法を使って、太陽の光を導いてやればいい。ただ、星全体を覆わないといけないから、さすがにかなり魔力を――」
「あ、すみません……私の例え方が間違ってました」
と、なにやら悪魔尻尾をしょぼんとさせているアイリス。
けれど、彼女はすぐに元気いっぱいといった様子で、ジークへと言ってくる。
「でもでも、魔王様がすごいのは確かですよ♪」
「そうか? さっきの例えだと別に――」
「えぇい! さっきの例えも、魔王様からしたら簡単でしょうけどね! 凡人常人天才秀才――私やブランのような、最強魔物勢でも難しい事なんですよ!」
「つ、つまり?」
「あは♪ さすが魔王様、なんでも出来る私の嫁ってことです♪」
アイリスさん、ご機嫌だ。
何度も言うが、ジークがすごいかは不明だ。
けれど、彼女が楽しそうなのでまぁよしとしよう。
などなど、ジークがそんな事を考えていると。
「ん、ブランも一つある」
珍しくも、手を上げてくるブラン。
彼女はジトっとしたいつもの視線で、ジークへと言葉を続けてくる。
「ミハエルが最後に使った秘薬 《ミア》……ん、まおう様があれを完成させちゃったの……本当にすごい」
「いや、あれはミハエルが途中まで作った物に、手を加えただけだから全くすごくなんて――」
「まおう様は謙虚すぎる」
言って、お酒をちびちびブランさん。
彼女はこくこく喉を動かした後、さらにジークへと言ってくる。
「ブランは錬金術師じゃないけど、それでも簡単にわかった――秘薬 《ミア》は最初から『完成品』と言っても、文句なしの出来栄えだった……まるで芸術品の様な出来栄え」
「ミハエルが作った時点でってことだよな――自爆する秘薬がそんなにすごいか?」
「錬金術の基本は等価交換……ミアに迫る力を出せる代わりに、すぐに死んじゃう……ん、採算が取れてる」
言われてみると、たしかにそれはそうだ。
本来、ミハエルの人生を何度重ねても、ミアには遠く及ばないに違いない。
そこを薬一つで、ミアに近しい力を出せるようにしているのだ。
命が一瞬でなくなるくらいは、安いに違いない。
などなど.
ジークがそんな事を考えている間にも。
「要するに……ん、まおう様は『手の付けようのない芸術品を、さらに上の段階へと昇華』させた――ミアと同等の力を出せるのに、死なない薬なんて……常識じゃ考えられない」
と、聞こえてくるブランの声。
彼女は身を乗り出しながらジークへと言ってくる。
「さすが……まおう様はすごい!」
「お、おぉう」
「人が全てを捧げて作り出した芸術品を、一瞬で改良できる頭の良さ……ん、ブランは確信した――まおう様はこの世界の頂点に立つべき存在」
きらきらきらきら。
きらきらきらきらきら。
ブランさんの瞳から、尊敬のお星さまが飛んできている。
そして、それと同時――。
「お、おぉ! ジーク、おまえはわたしの想像以上にすごい男なのですね!」
なにやら拍手しているアハト。
ともあれ、彼女達にそこまで言われると、本当にジークがすごい気がする。
照れくさいが、悪い気分ではない。
と、考えていたその時。
「おっほん!」
などと。
ジークの思考を裂くように、ユウナの声が聞こえてくるのだった。
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