第六章 究極錬金4
「あ、痛い……あ、イタタタタタタタタタッ!」
と、ジークに手をひねられているミハエル。
なんとも情けない声だ。
(はぁ……重ねて本当にこいつらにはガッカリだな)
ジークが秘薬 《ミア》を完成させてやったのに、結局はこの様だ。
と、ジークがそんな事を考えていると。
「な、なんで……なんで、僕がこんな目に!?」
と、言ってくるミハエル。
彼はジークを睨み付けながら、さらに言葉を続けてくる。
「今の僕はミアだ! ミア・シルヴァリアと同じ力を持っているんだ! なのに、どうして僕が負けてるんだ!?」
「その答えを知りたいか?」
「お、教えろ! 僕に教えてみろ!」
「名剣が二振り。片方を赤子へ、片方を名のある剣士へ渡したとする。両者を戦わせた場合、いったいどっちが勝つと……はぁ」
「な、何のため息だ!?」
同じ力であっても、使い手によって戦闘力は大幅に異なる。
エミールとの最終戦後、彼にも説明してやったのとまったく同じ文言だ。
だからこそのため息。
いったいジークは、現代勇者達に何度同じ説明をすればいいのか。
考えるだけで、頭が割れそうに痛くなってくる。
「ふっ……油断したな!」
と、ジークの腕を払いのけ、距離を取って来るミハエル。
彼はジークへと両手を翳し――。
「くらうがいい! 勇者ミアの力を! 全知全能たる錬金術師、至高の勇者――ミハエル・ジ・アルケミー十二世の力を!」
そんなミハエルの手から放たれたのは、紛れもなくミアの魔力。
しかも、ミハエルの死に物狂いの一撃だ。
おそらく、余波だけでジークは即死しかねない。
そして、直撃で巻き起こる爆発は、世界地図を書き換えるレベルになるに違いない。
(でも、洗練もされてなければ、工夫もされてない。そんな垂れ流しの物に、当たるバカはいない)
ミハエルの敗因は一つだ。
ミアの技を、ミアの魔法を学ばなかったこと。
いきなりミア並みの力と魔力、そして頭脳を手に入れても、それを活かせる下地がなければ意味はない。
(もし、この秘薬 《ミア》を使ったのがアハトだったら。あの凄まじい剣術の相乗もあって、かなり追い詰められただろうな……負けはしないが)
そこまで一瞬で考えた後。
ジークは全身に魔力を纏い、防護壁をより強固にする。
その後、余剰魔力を右手に集中。
彼はその手を、飛んでくる魔力弾めがけて振い。
遥か上空へと弾き飛ばした。
「な、なぁ!?」
と、またも驚愕といった様子のミハエルの声。
同時、上空から聞こえてくる凄まじい爆発音。
時同じく巻き起こるのは、常人なら立ってられないほどの暴風。
ミハエルが放ち、ジークが弾いた魔力弾が爆発したのだ。
ジークがチラリと空へと視線を向けると、未だ爆発が連鎖し広がり続けている。
(上に弾いて正解だったな。もし、ミハエルに弾き返していたら、ミハエルどころかユウナやアイリス達も死んでいた)
などなど、ジークはそんな事を考えた後。
彼はミハエルへと片手を翳し――。
「魔力は……魔法って言うのはな。絶対に避けられないように、絶対に当たるように使うんだよ。例えばこうやってな――上位闇魔法 《グラビティ・オーメン》」
上空に現れるのは、禍々しい闇の光を放つ黒い月。
そこから降り注ぐのは、圧倒的な黒色の重力。
それはあらゆるもの地面へと落とし、縫い付けていく。
「く、ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
と、そんな月の真下――重力を一身に受けているミハエル。
彼は両手両膝を地面につけ、何とかといった様子で四つん這いになっている。
彼は超重力のせいで立つどころか、四つん這いすら難しいに違いない。
ジークはそんな彼へと言う。
「ミアなら片手で押し返したぞ。今のお前なら出来るだろ?」
「……っ!」
「それとも、力の使い方もなってないのか?」
「だ、だまれぇえええええええええええええええええええ!」
ぶしっっと鼻血を噴き出すミハエル。
なかなか頑張っているようだが、それも長くは続かなかった。
メキ。
メキメキ。
と、音を立てる 《ヒヒイロカネ》と秘薬で強化されたミハエルの手足。
それでも、重力に耐えきれなかったに違いない――ついに、それが変形し始めたのだ。
「う、あぐぅ……い、痛い……た、助けてぇ」
同時、ついに四つん這いすら出来なくなるミハエル。
彼は地面にうつ伏せに抑え込まれ、身体を超重力に軋ませている。
(このまま、放置していても潰れたカエルみたいに死ぬだろうが……最後にチャンスをやるか)
そういえば、初めてクソ勇者のエミールを戦った時、チャンスをやった。
同じクソでも、差別するのはよくない。
そんな事を考えた後、ジークはミハエルへと言う。
「お前にチャンスをやる」
「ちゃ、チャンス……あが――っ、な、なんでも、する……た、助けて」
「この街の住民の命を、生贄として俺に差し出せ。そうすれば命だけは――」
「捧げる! 何人でも殺す! き、きみに住民の命を渡す! だ、だから僕の命だけは助けてくれ! ぼ、僕はまだ死にたく――」
「失格だ。もっとも、俺は住民の命なんて欲しくないがな」
「へ?」
と、頭真っ白といった様子のミハエル。
ジークはそんな彼へと言う。
「勇者なら『住民の命は差し出せない』くらい言ってみろよ。魔王から人を守るのが、勇者の使命じゃないのか……ふざけるな!」
「あ、ぅ」
「もういい。これで終わりだ、ミハエル……お前に期待した俺がバカだった」
「ま、待って――」
「黙れ、それ以上ミアを……勇者を穢すな」
言って、ジークは片手を下ろす。
すると、凄まじい地響きと共に、ミハエルへ落下する黒い月。
空間を歪ませる程の重力塊は、ミハエルを瞬時に飲みこむだけでなく。
それは超重力をもって、大地に大穴をあけていく。
それこそ星の核に届かんばかりの、深く暗い穴を。
ジークはそれを見届けた後。
消え去ったミハエルへと言うのだった。
「次はしっかり、今回の反省を活かすんだな」
もっとも、次があるかは不明だが。
面白かったら、この部分より更に下(広告の下あたり)から、マックス星5までの評価や感想できますので、してくれると参考になります。
また、続きを読みたいと思ったら、ブクマしてくれると励みになります。
ブクマとポイントはどちらも、作者が連載する活力になっています。
冗談抜きで、執筆するモチベーションに関わって来るレベルです。
すでにしてくれた方、本当にありがとうございます。
あと……。
五月一日発売の『常勝魔王のやりなおし』2巻を予約してくれたりすると、ものすごく嬉しかったりします。
そしてこちらも、すでに予約してくれた読者様はありがとうございます!




