第六章 究極錬金3
(おいおい……嘘だろ。薬の副作用ってとこか? 何にもしてないのに、勝手に死ぬとは思わなかった。どんだけ、不安定な薬を作ったんだよ……)
凄まじい消化不良感。
さすがのジークも、このままでは終われない。
(仮にもミアと同等を名乗った罪、何もせずに許せるわけがない)
それに、こいつは他にも数々のミアに対する冒涜をした。
これで死ぬなど生ぬるい。
ジークはゆっくりと、ミハエルの躯へと近づいていく。
(あった。このポケットに入っていた注射器が、さっき使った薬と同じものか)
ジークはそれに魔力を流し、成分を分析していく。
(なるほど。仮にも勇者だけあって、アプローチの方法は悪くないな。ただ、この方法だとミハエルの力量不足で、秘薬 《ミア》は一生完成しない)
ニュアンスから言うと、登山する際に登る道を間違えた感じだ。
ジークは更に秘薬 《ミア》の分析を進める。
そして、足りないものと余分なものを把握。
(ここをこうすれば……どうだ?)
と、ジークは魔力を流し込んで、秘薬 《ミア》を改良していく。
そして、時間にしておよそ数分。
「できた」
ジークの手の中にあるのは、完成した秘薬 《ミア》だ。
これを撃ち込めば、少しの間『副作用なく本当にミアと同等の力』が出せる。
ジークはそれをミハエルに打ち込んだ後。
「上位回復魔法 《リバース》」
と、ミハエルへと蘇生魔法をかける。
すると、彼の手足はどんどんくっついていき、やがて無傷の状態となる。
これで準備は出来た。
(今度は俺自らの手でしっかりと駆除して、ミアを穢した罪を償わせやる)
ジークが満足した――。
まさにその瞬間。
バッ!
と跳ね起き、ジークから距離を取って来るミハエル。
彼は自らの両手を見下ろしながら、誰にともなく言う。
「なんだ、この力は……全てが見える、全てが理解できる」
直後、ミハエルの手首から先がボトリと地面に落ちる。
その手首から先は凄まじい速度で形を変えていき、やがてライオンになる。
産まれたライオンは、目にもとまらぬ速度で中庭を縦横無尽に駆け回る。
その後、そのライオンは飛び込むように。ミハエルの手首に飛び込んでいき。
気がつくと、ライオンは消え――ミハエルの手首から先は、もとに戻っていた。
「錬金術の基本は等価交換。けれど、なんだこれは……それを完全に無視できる」
と、驚いた様子のミハエル。
彼は次々に体から生物を生み出したり。
体から翼を生やしたり、様々な事をし始める。
やがてミハエルは満足したに違いない。
ミハエルはジークへと視線を向けてくると、そのまま彼へと言ってくる。
「今の僕は全知全能だ」
「だろうな。ミア・シルヴァリアはまさしく、全知全能だった――自分で言うのもアレだが。百回やっても、俺はあいつに一度も勝てない気がするよ」
「いい表現だ」
と、厳かな様子を漂わせるミハエル。
そんな彼はまるで神の様に、ジークへと言葉を続けてくるのだった。
「さぁ、始めよう。僕達の最後の戦いを――キミへの審判を」
直後、ミハエルはジークの方へと駆けてくる。
まるで瞬間移動するかのように、大地を爆散させながら。
その速度、間違いなくミアと同等。
そして気がつけば――。
「くらえ、魔王! 最強の勇者たる、僕の一撃を!」
目の前から聞こえてくるミハエルの声。
彼はジークの首めがけ、横凪の手刀を放ってきている。
その手は凄まじい速度のせいか、摩擦熱で金色に発光。
さらにその一撃は――。
風圧により、裏庭の木々をなぎ倒し。
城の壁を、尖塔を次々に崩壊させ。
踏み込みにより、大地に縦横無尽の亀裂を入れ。
ミハエルから放たれる圧は、街全体を揺らしている。
まさに超越者たる一撃。
だが、それは当然だ――今のミハエルの身体能力は、ミアと同等なのだから。
きっと、直撃すればジークの首でも落とされるに違いない。
「はぁ……」
故にジークは残念で仕方ない。
彼がそう思った理由は簡単。
パシッ。
「……は?」
と、聞こえてくるのは、またも呆然とした様子のミハエルの声。
要するに、ジークが彼の手刀を片手で受け止めたのだ――手首を掴む事によって。
(身体能力は高くても、使い方がなっていない)
論外だ。
勇者は心技体の全てが揃わなけえれば成立しない。
ミアはその全てがあったが、ミハエルは二つが欠落している。
故にこの様――と、そんな事を考えた後。
ジークはミハエルの手首を、思い切りひねりあげる。
すると――。
「あ、痛い……あ、イタタタタタタタタタッ!」
などと。
聞こえてくるのは、ミハエルの声。
(はぁ……重ねて本当にこいつらにはガッカリだな)
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