第六章 究極錬金
「改めて――ようこそジーク君、僕の城へ! 数々の試練を乗り越えたキミは、僕と戦う資格があるようだ!」
と、聞こえてくるのはミハエルの声だ。
彼は木々の裏から姿を見せると、ジーク達と向き合う様に――距離を取って歩いて来る。
そして、そんな彼はアハトに視線を移した後、彼女へと言葉を続ける。
「おや、キミも居たのか。住民を救うなんていう、くだらない目標を達成したんだ。もう逃げ出しているかと思いましたけど」
「勘違いしないでほしいですね。たしかに、住民を救う事も目的ですが。その根本――おまえを打倒し、この街を救うという目的がわたしにはあります」
「ははっ! 僕を倒す、ね……まったく、使えないホムンクルスだ。キミが本来言うべきは『僕を守る』だろ! この失敗作のクズが!」
「そんなに激昂するなんて、随分余裕がないのですね、ミハエル」
「勘違いしないでほしいですね。クズとの会話に付き合っていると本当に疲れ――」
「クズはどっちだ?」
と、ジークはミハエルの言葉を遮る。
すると、ミハエルはギロっと血走った眼をジークへと向けてくる。
そんな彼はそのまま、ジークへと言葉を続けてくる。
「ジークくん……キミは最強の魔王だ。僕はそういう点では、キミにある一定の評価をしています。けれど、そんな口を利かれるのは困るな」
「俺は別にお前からの評価なんて欲しくない。そんなものより、ここに居るアハトに評価してもらった方が、数万倍は嬉しいな」
「っ……クズ同士でシンパシーを感じやがって」
「おいおい、さっきと言ってる事が違うぞミハエル。俺の事は評価してくれてるんじゃないのか?」
「ふっ。ジーク君は強さがあっても、会話の能力やその他全てが欠けているということですよ」
言って、片手で髪をかき上げるミハエル。
彼のその仕草と、顔つき――それはまるで、自分自身に酔っているかのようだ。
その仕草からは、圧倒的な自信が感じられる。
ジークとアハト達に、ここまで追い詰められたにもかかわらずだ。
(俺達にここまで突破された事に焦って、ミハエルはアハトに激昂したのかと思ったが。この様子だと、違うみたいだな)
先ほどのミハエルの激昂――あれは本気で、アハトのバカさ加減に怒ったに違いない。
もっとも、どこをどうとっても本当にバカなのは、やはりミハエルだ。
なんせ――。
(この状況、どう考えてもミハエルのピンチなんだよな)
ピンチをピンチと認められず、逆に好機と思っていること程愚かなことはない。
などなど、ジークが哀れな視線をミハエルに向けていると。
「さて、キミ達との話はもういい――クズ共との会話は疲れるだけですからね」
と、言ってくるミハエル。
彼はジーク達から少し距離を置くと、誰にともなく言う。
「来い――人造竜タイラント!」
直後、雲を割いて現れたのは、五つ首の竜。
ブランの竜形態よりも遥かに大きく。
五百前の魔物すら超える、圧倒的な魔力を内包した存在。
ジークは以前、タイラントを間違いなく撃墜した。
けれど、きっとミハエルが改修したに違いない――タイラントは無傷だ。
それどころか、以前よりも凄まじい力を感じる。
とはいえ。
「芸がないな、ミハエル。お前が言っていた『俺を倒せる準備』とやらは、こいつのことだったのか?」
「安心するといいよ、ジーク君。もちろん、準備はこれだけじゃない――でもね、キミは『これだけの準備』でも十分だと思うんだ」
と、笑いをこらえている様子のミハエル。
彼はバッと両手を広げると、そのままジークへと言葉を続けてくる。
「キミに絶望的な情報を教えてあげますよ! 先日のタイラントの一撃はね……リミッターをかけていたんだ!」
「ほう」
「出力を全開にすると、タイラント自身が威力に耐えきれないからね!」
「さすがだな。あの時に出力を全開にしなかったのは、街への被害を抑えるのを考えたんじゃなく、ただ単に自分の作品の心配をしていったってわけか」
「あはははっ! その通りですよ! 街など、人など……僕の作品に比べれば、ただのゴミ同然ですからね!」
と、開き直った様子のミハエル。
やはり、言動も行動も勇者失格だ。
(ミアがこいつを見たら、いったい何を思う事やら)
それを考えると、苛立ちしか沸いてこない。
などなど。
ジークが考えている間にも、ミハエルはジークへと言葉を続けてくる。
「タイラントの出力全開はね、この街すらも容易に消し飛ばす。こうイメージしてくれればいい――ミアが作り上げた最強魔法 《ゾディアック・レイ》が、首一つ一つから放たれるんだ」
「要するに、そいつの瞬間攻撃力はミアの五倍ってことか?」
「と、思うだろ?」
と、ニヤニヤした様子のミハエル。
彼はそのまま、自慢げな様子でジークへと言葉を続けてくる。
「最強魔法 《ゾディアック・レイ》クラスの魔力が重なり合うとね、その相乗効果で威力は二十倍にまで膨れ上がるんだ!」
「ほう、それはすごいな」
「そうだろう!? これこそが勇者である僕の頭脳の力だ! わかるかい? このタイラントは……この僕の力こそ最強、この世界を支配できる力だと!」
《ヒヒイロカネ》でブーストされた、エミールの 《ゾディアック・レイ》。
あれですら、威力だけで言えばジークの命に届いていたのだ。
ミハエルの説明が本当ならば、タイラントの一撃はジークを二十回殺せる事になる。
故にジークは、ものすごく後悔した。
そんなに強いのなら、ちゃんと戦って楽しめばよかった……そう。
瞬殺なんてしないで。
などと、ジークが後悔している間にも。
「さぁ、いよいよ見せてあげよう! 最強の力を! 僕の至高の傑作を!」
言って。
ミハエルは上空のタイラントへと手を翳し。
「焼き払い、消滅させよ! 放て―― 《ファイブ・ゾディアック・バースト》!」
と、彼は高らか様子で、誇らしげな様子で技名を吠える。
その直後。
ボトッ。
ボトトトトッ。
人造竜タイラントの首
それが、ジークとミハエルの間に堕ちてきた。
「は?」
と、呆然とした様子のミハエル。
そうこうしている間にも、人造竜の胴体もドシンっと音を立てて落下。
(とりあえず、この死体邪魔だな)
ジークは魔法でタイラントの死体を焼き払う。
そして、彼は未だ呆然としているミハエルへと言うのだった。
「本当に申し訳ないんだが、タイラントならな。お前が自慢話を始める前――あいつが現れたと同時に、五つの首を切断してたんだ」
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